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「需要予測の精度向上による省エネ物流プロジェクト」を語るインタビュー/対談

事業化と社会問題の解決を視野に入れ、気象予測の新たなステージを目指します

経済産業省の補助事業である「次世代物流システム構築事業」の一環でスタートした「需要予測の精度向上による省エネ物流プロジェクト」。
食品ロスと二酸化炭素排出量の削減に効果があるとして、省エネ大賞など3つの賞を受け、さらに注目度が高まっています。
関係者にお話をうかがう第二回は、プロジェクトの委員長をつとめた立教大学大学院・張輝教授と日本気象協会の常務理事・古市信道との対談です。プロジェクトの意義や事業化への思いについて2人が大いに語り合いました。
*進行役:本間基寛(商品需要予測プロジェクト・プロジェクトマネージャー)

当プロジェクトについて、最初にどのような印象を受けましたか?

張さん私はもともと気象予測に詳しい人間ではありません。ですから、今から3年前に初めて日本気象協会の担当者からこのプロジェクトの話を聞いたとき、実は半信半疑でした。しかし、いただいた資料は私の興味を強く惹きつけるものでした。そして食品ロスや物流のムダがこんなにも大きな問題になっているのか、というショックも大きかった。これは社会的課題だと感じました。新たな技術の活用や事業開発を考えるとき、たまたまの一時的な利益を求めるかどうかではなく、それが長期にわたってどれほど社会的課題の解決に貢献できるかが大切です。このプロジェクトには、その可能性を感じました。そして、アンサンブル予測とは具体的にどんな技術なのかを知りたい気持ちが強くなりました。

古市気象による需要予測は、「ウェザーマーチャンダイジング」と言いますが、1990年代にすでに登場していた概念で、新しいものではありません。当時は食品ロスの削減ではなく、いかに商品を多く売るかに重点を置いた需要予測でした。しかし必ずしも成功したわけではなかった。理由は、気象予測の精度が今ほど高くはなかったこと、そしてビジネスへのデータ利用の機運が熟していなかったことにあると思っています。一方、今は科学技術が進歩して気象予報の精度が上がり、同時にデータサイエンスが世界中で盛り上がりを見せています。非常にタイミングが良かったのです。それと、日本気象協会の他の気象会社にはない大きな特徴として、データ解析を得意とする調査解析部門とリアルタイムな情報提供を行う気象情報部門の両者を持っていることが挙げられます。最近の組織改編によって両者を結合し新たなビジネスの創出を目指すことに組織全体で取り組んでいます。

張さんつまり、日本気象協会から今回のプロジェクトのアイデアが生まれたのは必然なんですね。

古市2014年から3年にわたるプロジェクトでしたが、確かな可能性を感じたのはいつ頃でしたか?

張さん初年度が終了した頃でしょうか。私の中では3つのフェーズをイメージしていました。大まかに言いますと、1年目は日本気象協会のアンサンブル予測が本当に機能するのかを確かめること、2年目からは人工知能も用いて予測の精度をより向上させること、3年目はその技術を活かした具体的な使い道を探り、ビジネスモデルの基本的な枠組みを構築する、もしくはそのアプローチを明確にすることです。1年目は限られた商品で実証実験を行いましたよね。豆腐と冷やし中華のつゆの需要予測で、コンソーシアムメンバー一同の努力によって、目に見える確かな結果が出せた。それでこのプロジェクトがさらに展開する意義があるという実感を持ちました。

古市技術としてはいいが、問題はビジネスにどうつなげるかだ、とよく言われていましたよね。

張さん特に2年目に厳しく言ったと記憶しています(笑)。技術力はもちろん大切です。同時にサービスとして提供するからには、「誰に」「どのような」「これまでにない顧客価値」を提案し認知してもらえるか、そしてその技術をどう使えば消費者のためになるか、事業として成り立つためにはどのような業務プロセスや社内外の経営リソースを活かすか、これらによって収益を得られるか、結果的に社会的課題の解決に役立つのかを考えることが不可欠でしょう。

プロジェクトが始動してから感じられたことは?

張さん発足当初からずっと感じ続けていることがあります。それは日本気象協会の本気度と真剣さです。会社の体制はもちろん、プロジェクトメンバーのモチベーションの高さは並ではありませんね。それと今回は委員会も特別だと思います。コンソーシアムだから、といえばそれまでですが、初年度の6社から始まって30社まで増えている。参加人数も約60人にまで増えました。これだけ参加メンバーが多ければ予想外の難しさもあったはずです。しかし、コンソーシアムメンバーの方々からの有り難い協力も確かですが、何があってもこのプロジェクトを成し遂げるんだ、という日本気象協会側の強い思いがありましたよね。

古市コンソーシアムが立ち上がっても、結局うまく運ばずに尻すぼみになる場合も多いと聞きますが。

張さん確かにそうですね。今回は年が経つに連れてメンバーも増えて、実験の対象商品や地域も広がりました。初年度は関東の企業だけの参加でしたが、最終的には全国へと拡大しましたね。その理由のひとつは、プロジェクトの進行中に成果をあげたことが大きいでしょう。みなさんは成果のもっと先を見てみたい、新たな技術を活かした場合の未知なる可能性に期待したい、そのために協力したいという心境に至ったのではないでしょうか。

古市顕著だったのはメーカーとの結果ですね。それを見てさまざまな分野から参画してくださったことが牽引力になった。小売や卸の企業も「私たちも何かできるんじゃないか」と興味を持ってくださるようになりました。

張さん同感です。プロジェクトが始動してから感じたことがもうひとつあります。それは、汎用性・信頼性・網羅性というキーワードをしっかりと念頭に置いて進めてきたということです。経済産業省という官庁から補助金を受けてスタートしたプロジェクトですから、社会という大きな枠組みで機能しなくてはなりませんね。社会性を意識して展開してきたことで、周囲からの期待も高まったのではないでしょうか。

今回のコンソーシアムで良かった点についてお話しいただけますか?

張さん委員会の運営の仕方も特徴的だったのではないでしょうか。参加・協力企業がメリットを得られるような委員会にしようと努力していましたよね。例えば日本気象協会のメンバーが、委員会の最後に必ず行う「5分でわかる天気」のレクチャーは楽しかった。桜の開花予想をしたりお正月の天気予想をしたり(笑)。私は15年以上にわたり、ある程度の委員会に参加してきましたが、そういった工夫は他の委員会ではまず見られないことです。また、参加企業をグループに分けて、プレゼンテーションを行ったり、グループ内でディスカッションする機会を設けたりしたことも功を奏したと思います。単なる協力者に留まらず、プロジェクトのパートナーとして盛り上げていこうという意識が高まったのではないでしょうか。

古市相乗効果といえるかもしれませんね。日本気象協会の熱意を行動に移すことで、委員会を巻き込むことができました。参加企業が増えたことで、お互いに新たな知見が得られ、そのお陰でプロジェクトそのもののレベルアップも叶いました。ビジネスモデルやアイデアは非常に大切ですが、結局は熱意ある行動が軸になって、どんどん物事が回っていった。我が社のメンバーたちもこの3年でずいぶん成長したと感じています。
それと、つい5年ほど前までは、「気象=環境」という考え方が一般的でした。与えられたものであって受け身的なもの。人間にできることは限られていたのです。ひとつは防災。自然の脅威をいかに防いで人間に与える影響をどれだけ小さくできるのか。もうひとつは、逆に環境アセスメントのように、人間が環境に与える影響を最小限にする努力。つまり、どちらも一方的なのです。しかし今回のプロジェクトは、気象と人間が「融合」することで社会の役に立とうという発想から始まっています。
我が社は一昨年に自然界に調和した社会を目指す「ハーモナビリティ」をミッションとして提唱したのですが、まさにその理念に準じる発想だと思います。

張さん「融合」は非常に重要なキーワードです。それがイノベーションにつながっていくと思いますね。初年度の委員会でも話しましたが、このプロジェクトはさまざまなイノベーションを誘発する可能性も秘めています。「イノベーション」というと、世紀の大発見など常識や物事の根本をひっくり返すような大それたことをイメージしがちですが、実はそうではありません。シンプルに言えば、異質の何かの新しい組み合わせからイノベーションが生まれることも多い。今回は気象データを扱うアンサンブル予測手法とPOSデータや売上データなどのビッグデータ、加えて機械学習などの人工知能(AI)による分析手法を組み合わせました。それぞれは必ずしも最新の技術ではありませんが、これらを解析したり補正したり、新しく組み合わせることによって需要予測イノベーションを起こすことになるでしょう。言い換えれば多面的な融合によって新しい技術やサービスが生み出されるし、プロジェクトの更なる展開によっては、日本における製(メーカー)・配(卸/流通)・販(小売)連携のあり方にも良い影響を与えるでしょう。今、まさに求められている考え方だと思います。

古市プロジェクトによって今までにはまったくなかったネットワークができました。その関係性は非常に大きな意味を持っています。異業種間のコミュニケーションによって、お互いに気づかなかったことに気づくこともできました。例えば日本気象協会のプロジェクトメンバーは、企業の生産現場を見ることで、なぜ気象データがこれまで有効に使われてこなかったのかを実感できました。

張さん異業種間のコミュニケーションは大変貴重ですね。これはきっと新しい組み合わせを誘引するきっかけになると思います。ところで、近年、人工知能(AI)とビジネスを連携させる動きも非常に活発になってきています。この3年の間でやってきたAIをビジネスに活かす試みは、今後、とても大きな経験、実績につながると思います。

古市AIは以前からありますが、張先生が言うように、AIと何かの新たな組み合わせによって「こんなこともできるの?」という技術、イノベーションが世に出てきています。2045年に訪れるシンギュラリティ(技術的特異点)についてもさかんに論じられています。しかし、AIの命はデータです。正確なデータの蓄積があってこそ、AIが生きてくる。インプットするデータが曖昧だと、そこから導き出される結果も曖昧になってしまいます。私たちのプロジェクトの場合も、AIがあるから結果が出せたわけではありません。最も重要なのはあくまでも気象予測の正確性。これは将来にわたって変わらないでしょう。そして正確な気象予測の技術こそ、私たちが最も強みとしているところなのです。

張さんAIがどんなに進化しても、最上流にあるのは人間がインプットするデータだというのは納得できるし、心に留めておかなくてはならない話だと思います。

古市90年代のウェザーマーチャンダイジングに比べて、今回は気象の予測データが正確になり、製造業や小売業のデータも正確になっている。今回の良い結果は、あくまでも精度の高いデータが元になっていると言えるでしょう。

3年間のプロジェクトの意義についてお話しいただけますか?

張さんアンサンブル予測を活かしながら、二酸化炭素の排出量、食品ロスの削減の方法を確立できました。そして製・配・販の連携に対する意識向上にも貢献しています。先ほどAIはデータが命、という話がありましたが、実際は、企業はデータを外に出したがらないものです。これまではデータによっては企業秘密として隠しておくものだった。しかし、このプロジェクトを通じて、製・配・販の連携こそが新たなビジネスチャンスにつながるし、そのためにはデータの提供が不可欠だという認識を参加メンバー内で共有できました。これはまさしく次世代物流に向けての新たな提案のひとつになると思っています。

古市今年度はこのプロジェクトで、「第17回 物流環境大賞 大賞」、「平成28年度 省エネ大賞/製品・ビジネスモデル部門 経済産業大臣賞(ビジネスモデル分野)」、そして「第4回 食品産業もったいない大賞 農林水産省食料産業局長賞」と、3つも賞をいただくことができました。

張さんおめでとうございます!プロジェクトが進行している最中の受賞は珍しいことなんですよ。特に何かの技術を活かした事業開発関係のプロジェクトはね。それだけ期待も注目度も高いということでしょう。

今後の課題についてうかがえますか?

張さん新規事業の立ち上げは常に予想外の問題、計画外の出来事にぶつかってしまいますが、今までのように何があっても確実に取り組んでいただけるだろうと思いますね。まずは実例を増やしていくことでしょう。ビジネスとして始めて、世間に広く認知してもらうことです。1年、2年ではなく、ずっと続いていくと期待されるビジネスですから、今後、さらに新しいイノベーションが生まれることも大いに考えられます。その中で共感者のネットワークを広げていく。そのネットワークが広がるほど、ビジネスとして展開されるでしょう。今回のプロジェクトの委員会もそのまま終わらせずに、可能なら年に何度か会合を開いてもいいとも思いますね。

古市今回のプロジェクトは、課の中のメンバーで進行していましたが、プロジェクト終了を機に「先進事業グループ」と銘打って、新たなグループを立ち上げます。事業化に向けて本腰を入れる第一歩です。

張さん補助事業の理想の姿ですよね。この3年間で蓄積してきた多様なリソースをベースにしながらビジネスとして成立させて、結果的に社会に貢献するということ。防災や環境問題などに利用されてきた確かな気象予測を大切にしながら、従来の枠を超えて、新たな気象ビジネスの市場創出や新たな社会問題解決のためのリーディングケースになることを強く期待しています。

張 輝(ちょう き)氏

主に技術経営、知財戦略、ビジネスモデル構築、イノベーション・マネジメント、異文化ビジネスなどに注力。
総務省、国土交通省、経済産業省関連ワーキンググループ等の専門委員を歴任し、BMAジャーナル編集長。

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