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「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)
第1回 人間活動は地球の気候をどう変化させている?

サステナビリティ

2023年7月、国連のグテーレス事務総長は、地球は「温暖化」などというレベルを通り越して「沸騰する時代が到来した」と危機感をあらわにし、最悪の事態を避けるには即座に劇的な対策を打つことが必要だと訴えました。

世界気象機関(WMO)の2022年の年次報告書によると、2015~2022年の8年間の気温は観測史上最高を記録し、南極の海氷面積は過去最少、世界の氷河は劇的なペースで融解、海面温度や海面水位も過去最高となりました。2023年の夏もさらに記録が更新され、EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2023年の6~8月は観測史上最も暑い3カ月となったと報告しました。

2023年の夏は日本でも危険な暑さが異例の長期間にわたって続き、連日熱中症への警戒が呼びかけられ、一方で台風や豪雨による被害も相次ぎました。世界各地でも、熱波による猛烈な暑さや森林火災、記録的大雨による洪水等が発生しています。

このような気候の変化は、既に長年にわたって世界の多くの研究者によって様々な角度から研究され、その危険性について警鐘が鳴らされてきました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、このような研究結果を定期的に評価し報告書にまとめています。ここでは最新のIPCC報告書に基づいて、気候変動のこれまでとこれからについてわかっていることを3回に分けて紹介していきます。

人間活動によって地球が温暖化し、人類が経験したことのない変化が起こっている

☑ 人間活動が地球温暖化を引き起こしていることに疑う余地はない。
☑ 地球温暖化によって、人類がこれまで経験したことが無いような急速かつ大幅な変化が大気・海洋・陸域の地球全体で起こっている。
☑ 温室効果ガスの排出が止まらなければ、今後も温暖化が続く。

人間活動が地球を急激に温暖化させている

2011~2020年の地球は、19世紀後半と比べて1.1℃温暖化しており(図1)、この温暖化は人間活動(主に温室効果ガスの排出)によって引き起こされたことに「疑う余地はない」とIPCCは断言しました。

気温は場所や季節により変動しますが、地球全体の気温を平均して1.1℃上昇させるエネルギーは膨大なものです。しかし、それは人間活動の影響により地球が余分に蓄積しているエネルギーの約1%を占めるにすぎません。残りのほとんど(約91%)は海洋に蓄えられ、海面~海洋深層を温暖化させているのです。

海の温暖化は海の中だけでなく地球全体に重大な影響(例:海面水位上昇、台風の強大化、大雨の激じん化など)を与えるだけでなく、温暖化が止まったとしても海に蓄えたエネルギーは残り、その影響は千年単位で続くことになります。

 

現在の温暖化水準(1.1℃)は、過去10万年で最も温暖だった約6500年前頃の気温(推定0.2~1℃)を上回っていることがわかっています。今年(2023年)5月、世界気象機関は「66%の確率で2027年までに1.5度を超える」と発表しました。これは一時的な可能性を言っているものの、もし長期的に1.5℃を超えることになれば、われわれ現生人類(ホモ・サピエンス)の登場以来最も温暖であった約12万5000年前の気温範囲(0.5~1.5℃)を超えることを意味しています。つまり、地球の気候は人類が経験したことがない未知の領域に入っていくことになるのです。

また、温暖化の速度も異例なもので、近年の温暖化は過去2000年間で経験したことの無いスピードで急速に進んでいます(図1参照)。

この10年(~2030年)で急速に温室効果ガスの排出量を削減できなかった場合(図1中の、「非常に多い」~「中程度」の排出量)、世界平均気温はさらに上昇し続け、将来世代への影響がより深刻なものになるのです(図1参照)。

 

(図1)(上)地球温暖化の推移

図1 (上)地球温暖化の推移:これまで(灰色・黒)と、排出シナリオ別に予測された未来(色付き)の世界平均気温の変化。出典:IPCC AR6 WG1 図 SPM.1(a)及び図SPM.8(a)から作成。
(下)1900年以降~将来(シナリオ別)の世界平均気温の変化。1950年、1980年、2020年生まれの人がどのような温暖化環境で生きるかを対応させて示している。出典:IPCC AR6 SYR 図SPM.1(c)

温暖化で気候の極端現象が激化し頻発

近年発生した干ばつ、火災の発生しやすい気象条件、大雨、極端な暑さ、海面水位の上昇、氷河の後退といった事象の多くが、人間活動が主要な要因となって発生していたことがわかっています。今後、温暖化が進めば、このような事象はさらに激甚化・増加し続けます。今夏のような猛烈な暑さも、より頻繁に発生するだけでなく、さらに高温になると予測されています(図2参照)。

(図2)温暖化と、10年に一度発生する極端な高温の出現頻度・強度との関係

図2 温暖化と、10年に一度発生する極端な高温の出現頻度・強度との関係。 出典: 「気候変動2021 自然科学的根拠」解説資料(導入編)

数千年にわたって止まらない変化や取り返しのつかない急激な変化も

仮に今すぐ温室効果ガスの排出をゼロにすることが出来たとしても、過去に排出された温室効果ガスが大気中に長く残留するため、温暖化がすぐに止まることはありません。また、海水温の上昇や海面水位の上昇は数百年~数千年にわたって続きます。排出削減が遅れれば遅れるほど、未来世代にコントロール不能の地球を引き渡すことになってしまうのです。

温室効果ガスの蓄積が徐々に進んでいった結果、ある時点を境に不可逆で大規模な変化が起きる可能性も指摘されています。この転換点はティッピング・ポイントと呼ばれ、少しずつ変化する強制力がシステム別の状態に変えてしまい元にはもどれなくなるしきい値を指しています(1)。地球システムの中で、地球温暖化によりこのしきい値を超えてしまいそうな地域規模の気候サブシステムがあって、グリーンランド氷床の融解や南極氷床の融解、アマゾンの森林破壊などが注目されており、McKay他、2022(2)は、例えば西南極氷床は、1.5℃の温暖化でもティッピング・ポイントを超えて不安定化し、数百~数千年かけて完全に融解してしまう可能性が高いと報告されています。もし、西南極氷床が全て融解すれば、海面は最大約5m上昇すると予測されており(3)、その影響は非常に大きいでしょう。そればかりではなく、南極大陸の氷の大部分を占める東南極氷床の不可逆的な融解を引き起こすティッピング・ポイント(約5~10℃の地球温暖化)は、もし超えてしまうと1万年以上かけて海面水位を最大50mも上昇させることになります。また、低い温暖化レベルであっても1つのサブシステムがティッピング・ポイントを超えると他に波及して、ドミノ倒し的な影響をもたらすと危惧されることから、温暖化を最低限に抑えることが急務なのです。

1. Abram, N. et al., 2019: Framing and Context of the Report. In: IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate [Pörtner, H.-O., D.C. Roberts, V. Masson-Delmotte, P. Zhai, M. Tignor, E. Poloczanska, K. Mintenbeck, A. Alegría, M. Nicolai, A. Okem, J. Petzold, B. Rama, and N.M. Weyer (eds.)]. In Press, pp. 73–129, www.ipcc.ch/srocc/chapter/chapter-1-framing-and-context -of-the-report .
2. McKay A. DI et al., 2022: Exceeding 1.5℃ global warming could trigger multiple climate tipping points. Science, 377(6611), doi:10.1126/science.abn7950
3. Pan, L. et al., 2021: Rapid postglacial rebound amplifies global sea level rise following West Antarctic Ice Sheet collapse. Science Advances, 7(18), doi: 10.1126/sciadv.abf7787

 

【Special issue】「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)

第2回 地球温暖化がもたらす気候の変動が人間や自然に及ぼす影響とは?
第3回 人間と生態系が持続可能であるために必要とされる気候変動対策とは?