気象テクノロジー

地域にとっての大雨の異常さを捉える指標「既往最大比」

地域ごとの過去最大雨量との比較から、大雨災害リスクを捉える

大雨が予想されるとき、「24時間雨量300ミリ」「48時間雨量500ミリ」といった雨量の情報は、雨の規模を知るための重要な手掛かりです。しかし、同じ雨量であっても、地域によって災害の起こりやすさは異なります。

そこで、日本気象協会では、大雨災害のリスクを捉える指標の一つとして「既往最大比」に着目しています。

既往最大比とは

既往最大比とは、ある地点で予想または観測された雨量が、その地点で過去に観測された最大雨量に対して、どの程度の割合にあたるかを示す指標です。

例えば、ある地点の過去最大の48時間雨量が300ミリで、今回予想される48時間雨量が360ミリの場合、既往最大比は120%となります。これは、その地点で過去に経験した最大雨量を20%上回る規模の雨が予想されていることを意味します。

同じ300ミリの雨でも、過去最大雨量が500ミリの地域では既往最大比は60%ですが、過去最大雨量が200ミリの地域では150%となります。

このように既往最大比を用いることで、雨量を単に「何ミリ降るか」という絶対値ではなく、「その地域にとって、どの程度異常な雨なのか」という視点で捉えることができます。

既往最大比

なぜ「地域にとっての過去最大級」を見るのか

大雨による被害の大きさは、降水量だけで決まるものではありません。地形、河川の状況、土地利用、過去の災害経験など、さまざまな条件が関係します。そのため、全国一律の雨量だけでは、地域ごとの災害リスクを十分に表せない場合があります。

平成30年7月豪雨では、雨量の絶対値が特に大きかった地域と、人的被害が多く発生した地域は必ずしも一致していませんでした。一方、過去最大値との比較で見ると、人的被害が集中した岡山県・広島県・愛媛県では、24時間、48時間、72時間雨量や土壌雨量指数の既往最大比が高い傾向がみられました。

こうした事例からも、大雨災害のリスクを考える際には、雨量の絶対値だけでなく、「その地域にとって過去最大級の雨になるのか」という視点が重要であることが分かります。

48時間降水量の既往最大比

早めの防災判断につなげる

既往最大比の大きな特徴は、大雨への対応を早めるための判断材料として活用できることです。

企業や自治体が大雨に備える際には、従業員や住民への連絡、設備の保全、資機材の移動、配送計画の変更、店舗の営業時間変更、避難準備など、実際の行動までに一定の時間が必要です。

既往最大比から「過去最大級の雨となる可能性」を早めに把握できれば、危険が差し迫る前から警戒体制を整え、必要な対応を前倒しすることができます。

特に全国に工場、倉庫、店舗、営業所など複数の拠点を持つ企業では、単純な予想雨量だけで比較するのではなく、拠点ごとの既往最大比を見ることで、どの拠点を優先して確認・対応すべきかを判断しやすくなります。

例えば、工場・倉庫では操業判断や浸水対策、物流では配送ルートや出荷計画の変更、店舗では営業時間短縮や臨時休業、建設現場では屋外作業の中止、施設管理では止水板設置や排水設備の確認などの判断材料として活用できます。

BCP(事業継続計画)への活用

企業防災では、気象情報を確認するだけでなく、その情報を具体的な行動基準に結びつけておくことが重要です。

既往最大比についても、「一定の値を超えたら監視を強化する」「拠点責任者へ連絡する」「設備保全や資機材の退避を始める」「操業や営業の継続可否を検討する」など、自社のBCPや防災ルールとあらかじめ結びつけておくことで、迅速な初動につなげることができます。

ただし、判断基準は一律ではありません。同じ既往最大比であっても、低地にある物流倉庫、土砂災害警戒区域に近い工場、高台にあるオフィスなどでは、想定されるリスクや必要な対応が異なります。拠点の立地条件、浸水想定区域、周辺地形、従業員の移動手段、業務停止による影響などを踏まえて、それぞれに適した基準を設ける必要があります。

他の防災情報と組み合わせて判断する

既往最大比が100%を超えたからといって、必ず災害が発生するわけではありません。また、既往最大比が低ければ安全ということでもありません。

既往最大比は、「その地域にとって過去最大級の雨になる可能性」を捉えるための指標であり、災害の発生そのものを断定する情報ではありません。

実際の防災判断では、気象庁の「キキクル(危険度分布)」 、警報、河川水位、洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域、道路冠水や現地の状況など、複数の情報を組み合わせることが重要です。

既往最大比を大雨が本格化する前の「早期判断」に活用し、その後はキキクルや河川水位などで「現在の危険度」を確認することで、より実態に即した防災判断につなげることができます。

日本気象協会の取り組み

日本気象協会では、気象庁が発表する各種防災情報に加え、独自の気象予測技術やリスク分析を活用し、企業・自治体などの大雨対策を支援しています。

「事業者様向け気象リスク対策情報」では、拠点ごとの大雨や水害に関する気象リスクを確認できます。最大14日前から大雨リスクを把握し、2~3日前にはどの拠点で過去最大級の大雨となる可能性があるのか、前日から当日にかけては、どの時間帯に災害をもたらすような大雨となる可能性があるのかを把握することで、具体的な対応判断につなげることができます。

大雨災害への備えでは、警報や被害が発生してから対応を始めるのではなく、リスクの高まりをできるだけ早く把握し、行動を前倒しすることが重要です。

「既往最大比」は、雨量を地域ごとの過去の経験と比較することで、大雨の異常度を分かりやすく示し、早期の防災・BCP判断を支える指標の一つです。