COMPANY「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPC・・・

「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)
第2回 地球温暖化がもたらす気候の変動が人間や生態系に及ぼす影響とは?

サステナビリティ

第1回では人間活動によって地球に起きている気候の異変とその将来予測について解説しました。
今回は、その気候の異変が人間や生態系にどのような影響を及ぼすかについて、最新のIPCC報告書の内容をひもといていきましょう。

参考:IPCCとは?

 

気候変動は生態系や人間の生活にとって脅威

☑ 気候変動による悪影響が既に地球全体に現れてきている。
☑ このまま温暖化が続くと被害がさらに深刻化し、人々の生活や生態系がますます危険に曝される。
☑ 地球温暖化に最も寄与していない(温室効果ガス排出量が少ない)脆弱な国々や地域、貧困の中で暮らす人々がより大きな影響を受けている。

気候変動がもたらす深刻なリスク

人間活動によって地球の平均気温が産業革命以降2020年までに約1.1℃上がったことで、既に世界中で極端な高温や大雨、干ばつが激化し、しかも頻繁に起こるようになってきています。また、海面水位の上昇や海水の酸性化、氷河の後退等、ゆるやかに進行する現象によるさまざまな影響によっても多くの人々の生活と生命が脅かされ、生態系にも深刻な影響が及んでいます。さらに温暖化が進むと影響はさらに深刻化するでしょう。

現在、既に地球上の約33~36億人もの人々が気候変動の影響を受けやすい状況で生活しています。例えば、熱波や豪雨、干ばつといった極端な現象が増加すると、食料や安全な飲み水の確保が難しくなってしまう人々がいます。また、極端な暑さの激化によって、人間の健康が脅かされるだけでなく、陸地でも海でも動物や植物の大量死が起きているのです。

気候変動はまた、農業、林業、漁業、エネルギー産業、観光業といった産業に甚大な経済的損害もたらします。例えば、2019年の台風19号(令和元年東日本台風)による被害総額は約1兆8600億円にのぼったとされていますが、人間活動による気候変動によって被害額が約40億ドル(約 5,160 億円)増えたと見積もられています(World Weather Attribution)。

 

 

人間や生物種が生きられない地域が増大

地球温暖化が進むにつれ、種が絶滅するリスクや人間が死亡するリスクが高い地域が低緯度を中心に広がっていき(図1)、適応することも困難になっていくと予測されています。

地球温暖化が進むにつれ、動物や海草(30,652種の鳥類、哺乳類、昆虫類、両生類、海洋魚種、サンゴ、海草など)の種が失われるリスクや、人間が死亡するリスクが高い気温・湿度条件になる地域が低緯度地域を中心に拡大していくのです。

(図1)地球温暖化水準(各マップ下部に示された温度)別の(a)種の喪失リスクと(b)暑さと湿度による人間の死亡リスクの分布図。どちらも現状に追加する適応がない場合の影響予測を示している。 出典: IPCC AR6 SYR 図SPM.3 (a)(b)

図1 地球温暖化水準(各マップ下部に示された温度)別の(a)種の喪失リスクと(b)暑さと湿度による人間の死亡リスクの分布図。どちらも現状に追加する適応がない場合の影響予測を示している。
出典: IPCC AR6 SYR 図SPM.3 (a)(b)

気候変動のリスクは不均衡に存在 - 複雑化する気候リスク

気候変動による悪影響は、人々に平等に降りかかるわけではありません。例えば、第1回の記事で紹介したように、子どもたちは、過去に排出された温室効果ガスによる温暖化の影響を受け、これからの人生において今よりさらに深刻な気候リスクに立ち向かい続けることになります。

さらに、災害への備えが困難な低所得国の人々や貧困の中で暮らす人々ほど大きなリスクに曝されており、今すぐ支援を増強しなければならないとIPCCは強調しています。これらの人々は、排出する温室効果ガスが極めて少ない(図2参照)にもかかわらず、生活や生存を脅かされているのです。

出典: IPCC AR6 SYR Longer Report図2.3(b)に加筆

図2 2019年の国別二酸化炭素排出量(一人当たり)とその国の国民の平均的な脆弱性を示す指標の間の関係。脆弱性の高い国は二酸化炭素排出量が少ない傾向にある。脆弱性は、例えば貧困、不平等、医療インフラ、保険加入率などの情報を基に評価されている。
出典: IPCC AR6 SYR Longer Report図2.3(b)に加筆

2022年、パキスタンは国土の3分の1が冠水する未曾有の大洪水に見舞われました。World Weather Attributionによると、被害を受けた一部の地域で観測されている5日間最大雨量のトレンドは、人為的な温暖化がなかった場合に比べて約75%多くなったことが示されています。

このように、もともと自然災害が起こりやすい(曝露されている)環境で生活していた人々の生活が、気候変動の影響でさらに脅かされる事態が既に発生しています。温暖化が進むと、気候リスクと気候以外のリスクがますます相互作用し、より複雑で、複合的で、かつ連鎖するリスクを生み出す、とIPCCは警告しています(図3参照)。

(図3)極端な高温と干ばつが零細農家にもたらす連鎖的リスクの例。 出典:IPCC AR6 SYR Longer Report 図4.3 (c)

図3 極端な高温と干ばつが零細農家にもたらす連鎖的リスクの例。
出典:IPCC AR6 SYR Longer Report 図4.3 (c)

気候変動がもたらす悪影響への適応

気候変動による悪影響がもたらす被害を低減するための適応行動は、温暖化する世界でますますその重要性が浮き彫りになっています。温暖化につれて増大する悪影響をできる限り小さくするには、大幅かつ持続的な緩和策(温室効果ガスの排出削減等)と同時に、適応策脆弱性曝露※を低減)が必要です。
国立環境研究所によると、気候変動リスクの大小は、気候関連のハザード、曝露、脆弱性の3つの要素によって決まります。
 気候関連のハザード:極端に暑い日、強い台風、豪雨の頻度など
 曝露       :ハザードの大きな場所に人や資産の存在していること
 脆弱性      :ハザードに対する感受性の高さや適応能力の低さ

適応策の結果、将来のリスクを小さくできるかどうかは、社会経済が持続可能性を重視したものになるか、そして将来の影響を予見して積極的に対策・投資する適応策を実行できるかにかかっています。たとえば、図4のように暑さに関連する病気や死亡の将来リスクは、適応策の在り方次第で大きく変わってくるのです。

このように、緩和と適応を両輪とする気候変動対策は、温暖化に寄与していないにも関わらず大きな影響を受けてしまう人々を救うためにも大変重要です。第3回では「人間と生態系が持続可能であるために必要とされる気候変動対策とは?」について、解説します。

(図4)適応が地球温暖化に伴うリスクの水準に与える影響。 出典:IPCC AR6 SYR図SPM.4(d)

図4 適応が地球温暖化に伴うリスクの水準に与える影響。
出典:IPCC AR6 SYR図SPM.4(d)

【Special issue】「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)

第1回 人間活動は地球の気候をどう変化させている?
第3回 人間と生態系が持続可能であるために必要とされる気候変動対策とは?