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「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)
第3回 人間と生態系が持続可能であるために必要とされる気候変動対策とは?

サステナビリティ

第1回では人間活動によって地球に起きている気候の異変とその将来予測を、第2回では気候の異変が人間や生態系にどのような影響を及ぼすかについて、解説しました。最終回となる今回は、気候変動対策について最新のIPCC報告書の内容を説明していきます。

参考:IPCCとは?

IPCCの警告:気候変動に立ち向かうには、対策のペースとスケールが足りない

☑ 誰もが生きられる持続可能な将来に向かうチャンスの窓は急速に閉じつつあり、排出削減と適応策を加速させなければならない。
☑ 気候変動に対して強靭(レジリエント)になる経路は、排出量削減と適応策を統合し持続可能な開発を促進する経路である。
☑ この10年(~2030年)の間に私たちがとる選択と行動は、何千年先までも影響を与え続ける。

今すぐ大幅な排出削減を進めないと地球温暖化を1.5℃には抑えられない

人間と地球が持続可能であるために、世界は地球温暖化を1.5℃に抑えることを目指しています(※)が、それが簡単ではないことはこのグラフ(図1)を見れば一目瞭然ではないでしょうか。産業革命以降これまで増加し続けている温室効果ガスの排出量を、遅くとも2025年より前に減少に転じさせ、それ以降大幅で急速かつ持続的に減少させなければ、1.5℃はおろか2℃に抑えることもできないのです。

※ 2015年に合意されたパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標を掲げました。その後、2℃ではリスクが大きすぎることがIPCCの1.5℃特別報告書(2018年)等で示され(第2回の記事も参照)、2021年のCOP26(グラスゴー)では1.5℃を事実上の目標とする決意が示されました。

また、気候変動によって人間と生態系が将来受けると予測される損失とダメージを軽減するためには適応行動も加速する必要があります。排出削減が遅れると地球温暖化がさらに進行し、それに伴って損失とダメージがますます拡大し、さらに多くの人間システムや自然システムが適応の限界に達してしまうのです。

(図1) 世界の温室効果ガス排出量の推移 出典:IPCC AR6 SYR 図 SPM.5 a) に過去のGHG排出量を追加して作成。

図1 世界の温室効果ガス排出量の推移
出典:IPCC AR6 SYR 図 SPM.5 a) に過去のGHG排出量を追加して作成。

2016年に発効されたパリ協定では全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出・更新することを義務付けています。
図1にある「パリ協定での各国の2030年削減目標※がすべて達成された場合(青色の破線)では、2021年10月までに提出された各国のNDCが達成された場合の排出量を示しています。

 

持続可能な将来への道が閉ざされる前に

地球上の誰もが生きていける持続可能な将来を確かなものにできる経路(図2の緑色)を歩んでいく可能性はまだ残されていますが、そのためのチャンスは急速に限られてきています(図2)。全ての人や生態系が気候変動に対して強靭(レジリエント)で持続可能になるには、温室効果ガスの排出削減とともに、適応策を統合した取り組みが必要です(図2および図3)。特に脆弱な地域、脆弱な人々に向けた資金源の利用可能性の向上、包摂的なガバナンス、国際協力の強化が重要であることが強調されています。

(図2)人類の選択と対策実行によって未来は変わる 出典:IPCC AR6 SYR 図 SPM.6から作成。

図2 人類の選択と対策実行によって未来は変わる
出典:IPCC AR6 SYR 図 SPM.6から作成。

(図3)健全な生態系が気候にレジリエントな開発の成功を左右する 出典:IPCC AR6 WGII 図TS.12を改変

図3 健全な生態系が気候にレジリエントな開発の成功を左右
出典:IPCC AR6 WGII図TS.12

最後に、私たちがこの10年の間(~2030年)にどんな選択をし、どんな対策を実行するかは、現在だけでなく数百年、数千年先の未来にまで影響を及ぼすことになると、IPCCは強調しています。

出典: IPCC AR6 SYR 公表時のプレスコンファレンスのスライドを和訳https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/press/IPCC_AR6_SYR_SlideDeck.pd

出典: IPCC AR6 SYR 公表時のプレスコンファレンスのスライドを和訳
https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/press/IPCC_AR6_SYR_SlideDeck.pdf

ここまで3回にわたってIPCCの第6次統合報告書を解説してきました。ドイツのNGO Germanwatchによる「世界気候リスク指標」で、日本は西日本豪雨や猛暑に見舞われた2018年、気候変動リスクが世界で最も高い国にランクされました。にもかかわらず、日本人は気候変動問題への関心が突出して低いのが現状です。たとえば、17の先進国を対象としたピュー研究所の調査によると、気候変動を深く懸念する市民の割合が近年大幅に減少しているのは日本のみでした(1)。また、11か国の若者を対象とした電通総研の調査では(2)、気候変動を「とても」~「極度に」心配している若者の割合が他の調査対象国では約5割~8割なのに対して、日本では2割未満だったという結果もでています。日本の気候変動対策を加速させ、世界の持続可能性に貢献するためにも、私たちが気候変動に対する関心と正しい知識を持ち、そして行動することが重要です。日本気象協会では、今後もそのための情報発信に努めてまいります。

1 “In Response to Climate Change, Citizens in Advanced Economies Are Willing To Alter How They Live and Work.” Pew Research Center, Washington, D.C. (September 4, 2021) https://www.pewresearch.org/global/2021/09/14/in-response-to-climate-change-citizens-in-advanced-economies-are-willing-to-alter-how-they-live-and-work/.

2 出典:「気候不安に関する意識調査」電通総研

【Special issue】「沸騰」する地球、人類の選択 ― IPCCの警告 (全3回)

第1回 人間活動は地球の気候をどう変化させている?
第2回 地球温暖化がもたらす気候の変動が人間や自然に及ぼす影響とは?