日本気象協会、「ダムの事前放流判断支援サービス」を開始 ~「最大15日先」「解像度が高い」「精度が高い」予測の提供により浸水被害低減を目指す~
Press Release
一般財団法人 日本気象協会(東京都豊島区、理事長:長田太、以下「日本気象協会」)は、ダムの効率的な事前放流を支援するサービス「ダムの事前放流判断支援サービス」を、2020年6月1日(月)から開始します。

【サービス名称】
ダムの事前放流判断支援サービス
【利用対象者】
ダムの運用管理を担当されている方
【サービスの特長】
●日本気象協会が独自開発した『JWAアンサンブル予測※1』のデータ(最大15日先までの予測情報)を活用することで時間に余裕を持ったダムの事前放流計画を立てることが可能
●具体的に示される「事前放流すべき時間帯や放流量のデータ」を活用したダムの事前放流判断支援
●「流出予測モデル」を用いることで、さらに高度な事前放流手法の検討が可能(オプション機能)
【サービス提供開始日】
2020年6月1日(月)から
【提供価格】
ご要望に応じてサービス内容をカスタマイズして提供します
【本サービスに関する問い合わせ窓口】
一般財団法人 日本気象協会 防災ソリューション事業部 営業課
電話: 03-5958-8143
Email: dam_yosoku@jwa.or.jp
【本サービス提供の背景】
近年、「平成30年7月豪雨」や「令和元年東日本台風(台風第19号)」など、過去に例を見ない大雨により、河川の氾濫や浸水被害が相次いでいます。多くの河川では上流にダムが整備されていますが、洪水調節機能を持つダムは限られているため、ダムの能力を超えて水を貯めることはできません。
一方、ダムによる洪水調節機能の早期強化に向けて内閣官房のもと検討会議が開かれ、2019年(令和元年)12月12日に「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針」が発表されました。この基本方針の中で、ダムの洪水調節能力を向上させる方策として、事前放流を活用することが示されています。
事前放流とは、大雨の発生が予測される場合、洪水が到達する前にダムの水を放流して水位を下げることです。利水容量の水(発電用水、水道用水、工業用水、農業用水)を放流することになるため、予想に反して雨が降らない場合、水不足に陥る危険性があります。反面、さまざまなダムで可能な洪水対策であり、「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針」でも全ての既存ダムが対象となっています。
日本気象協会は、これまで培ってきた降雨予測と流出解析技術を通じて浸水被害低減への貢献を目指し、「ダムの事前放流判断支援サービス」を出水期※2に対応すべく2020年6月1日(月)から開始します。
【本サービスの技術的特長について】
①『JWAアンサンブル予測』( 最大15日先までの降雨予測 )の活用
日本気象協会が独自に開発した『JWAアンサンブル予測』は、世界各国の気象機関が出す数値予測をもとに、独自の補正処理やAI技術(深層学習など)を利用した時空間ダウンスケーリング※3による、1時間雨量・5kmメッシュの高精度な降雨予測データです。最大15日先までの予測情報であるため、雨が降り始めるまで十分な準備期間を確保し、余裕を持って事前放流の計画を立てることが可能です。
表1と表2は気象庁GSM(全球モデル:全球域を高解像度に計算した数値予報モデルによる予測値)との比較です。『JWAアンサンブル予測』は「長時間の予測が可能(最大15日先)」「解像度が高い」「精度が高い」という特長があります。
また、図2は『JWAアンサンブル予測』をダム流域に適用した実例です。予測時間が長いため、より早い段階で大雨を検知できています。51通りの予測データは、上位・中位・下位の3ランクに分類し「最悪ケース」(雨が降る場合)や「空振りケース」(雨が降らない場合)を想定します。



② 事前放流判断支援(具体的に示されるダムの各種情報)
「ダムの事前放流判断支援サービス」では、過去の洪水事例に基づいた流出特性と、放流能力などのダムの諸要素(諸元)に基づき、事前放流の目標水位や放流量をダム管理者が設定します。ダムの能力を超える大雨が予測された場合に、表3の各種情報により「事前放流完了時刻」や「目標水位」などの表示で、事前放流を開始すべき時間や放流量を具体的に表します。
予測雨量は利用者の要望に応じてアンサンブル平均もしくは以下に示す3ランクにして提供します。これらの予測雨量は、複数のメンバー(予測結果の数)を平均化処理して作成します。予測更新ごとの変動が小さく、ダムの運用管理に適した情報です。
- アンサンブル上位: 早い段階から、事前放流の実施対象となり得る大雨の可能性を把握します
- アンサンブル中位: 平均的に最も精度の高い予測です
- アンサンブル下位: 予想に反して雨が降らない場合を考慮し、利水リスクを低減します

③(オプション機能)「流出予測モデル」を用いた、より高度な事前放流手法の検討を支援
「ダムの事前放流判断支援サービス」の予測雨量を流出モデルに入力してシミュレーションを行うと、ダム流入量を予測することができます。ダム流入量の時系列データをリアルタイムに予測計算することで、より高度な事前放流手法を予測することが可能です。(図3)

日本気象協会は、国立大学法人京都大学と共同研究「ECMWFアンサンブル予測雨量を用いたダム運用検討」に2017年から取り組んでおり、本サービスは共同研究の成果の一部を活用しています。
また、日本気象協会は、国立大学法人京都大学と独立行政法人水資源機構の3者共同で、ダムの事前放流の高度化を図る検討を進めています。これは、「内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 『国家レジリエンス(防災・減災)の強化』」の研究課題として行われています。
今回提供を開始する「ダムの事前放流判断支援サービス」は、日本気象協会が得た研究成果をもとに実際のサービスに実装するものとなります。
今後も日本気象協会は企業活動や研究活動を通じて得た成果を、社会課題の解決に役立てていきます。
※1:「アンサンブル予測」とは、予測に伴う不確定さを考慮することで将来の予測を可能にするひとつの手法
※2:出水期(しゅっすいき)とは、集中豪雨(梅雨)、台風等洪水が起きやすい時期のこと
※3:詳細情報 https://www.jwa.or.jp/news/2019/08/7901/
※4:総雨量比は、予測雨量/実況雨量です。スコアは、予測値と実況値のうち大きな方を分母として比を計算したものです。いずれも1.0に近いほど高精度です。
・製品名、サービス名などは一般に各社の商標または登録商標です
以上
PDFダウンロード:【日本気象協会発表】ダムの事前放流判断支援サービスを開始_