(エネルギー需要分析レポートVol.4)気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~日中の需要は戻り傾向 夜間需要には緊急事態宣言の影響も~
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エネルギー需要分析レポートでは、日本の電力需要に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響について、気象の専門家の観点から考察しています。今回は、2回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出され、記録的な電力需給の逼迫も発生した期間を含む2020年12月~2021年3月にスポットを当て、新型コロナウイルス感染拡大影響から戻りつつあったエリア電力需要が、その後どのように変化したか解説します。
エネルギー需要分析レポートVol.1~3では、2020年4月~11月の日本の電力需要に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響について、気象の専門家の観点から考察をしました。この結果、2020年5月のエリア電力需要は、複数の電力エリアで約10%減、その後6月~11月の電力需要は戻りの傾向であるものの夜間は低需要が続くという解析結果となりました。
エネルギー需要分析レポートVol.1(2020.06.25発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~電力需要は通常時の約10%減~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/06/10130/
エネルギー需要分析レポートVol.2(2020.07.20発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~緊急事態宣言解除後、全エリアで電力需要は増加傾向~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10447/
エネルギー需要分析レポートVol.3(2020.11.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~全エリアで電力需要は戻り傾向。夜間は低需要が続く~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/11/11705/
1.今冬は12月~1月に一時的に低温傾向 高需要も需給逼迫の一因に
Vol.3のレポートでは2021年冬(2020年12月~2021年2月)の傾向について、「『冬らしい冬』となり、前年の冬季最大需要を超える可能性」と見通しを示しました。その見通し通り、2020年12月下旬~2021年1月上旬は全国的に気温が低くなり、記録的な電力需給の逼迫が発生しました。
図1は、2020年12月~2021年3月と、その前年同時期の東京電力エリアでのエリア電力需要と気温の変動を示したグラフです。まず、気温の傾向を確認しましょう(図1・下)。2021年冬は寒い冬だった印象がありますが、実は2020年12月~2021年2月の平均で見ると暖冬傾向となっており、期間内での気温変化が大きかったといえるでしょう。冷え込みの厳しかった2020年12月下旬~2021年1月上旬は、前年のみならず平年より低温となりました。その後、1月下旬~3月は高温傾向が続き、早い春の訪れとなりました。
次に、同期間のエリア電力需要の変動を比較すると(図1・上)、冷え込みの厳しかった2020年12月下旬~2021年1月上旬は前年を上回る需要を記録しました。この期間は、東京電力エリアだけではなく、全国的に前年の冬季最大需要を更新しました。LNG不足の影響も受け、全国的な需給逼迫となったのもこの期間です。2月以降は気温の上昇に伴い、高需要の傾向も落ち着き、前年程度の需要となりました。

2.東京エリアでは日中の需要の伸びが顕著 エリア間の傾向差あり
次に、これまでのレポートに引き続き、気温影響を除いたエリア電力需要の傾向を確認しましょう。図2は、東京電力エリアの気温と電力需要の関係を時刻別に示したものです。2016年以降の月曜を除く平日の時刻別電力需要データを用いています。図2から、同じ気温で比較した電力需要の増減を見ることができます。
Vol.3のレポートでは、2020年の夏~秋にかけて、全エリアで需要は戻りの傾向であり、特に夏の日中時間帯では、同気温帯での過去データを超える電力需要も記録したことに言及しました。エリア需要全体に占める特別高圧※1需要の割合は、高需要期(夏や冬)では相対的に小さく、低需要期(春や秋)では大きくなります。このため、新型コロナウイルス感染拡大による特別高圧需要の減少は、高需要期のエリア需要にはあまり影響しない一方で、低需要期にはエリア需要も小さくなる可能性を示しました。
図2に示す2020年12月~2021年3月の日中(15時、18時)の需要は、過去の同気温帯での需要と同程度、もしくはそれ以上の高需要を示します。2021年3月は高温傾向で、気温帯は春や秋の低需要期に相当します。一方で、この月は2020年4月~6月の同気温帯での需要より大きい値を示しており、エリア需要は戻りの傾向であると言えそうです。また、2020年12月~2021年1月の高需要期には、過去よりも大きい値を示しています。これは、新型コロナ影響による需要減少が特に顕著であった特別高圧需要は徐々に戻りの傾向であったことに加えて、外出自粛等により自宅で過ごす人が増えた影響で過去よりも低圧※2需要が伸び、エリア需要全体として過去需要を上回ったためと考えられます。
また、深夜(1時)は、2021年1月の高需要期でも、過去の同気温帯での需要よりわずかに低い需要を示します。東京都による時短要請や、2021年1月7日に発出された2回目の緊急事態宣言によって、飲食店や商業施設の休業・時間短縮営業の影響が続いていることが、夜間需要の戻りを抑制している可能性があります。
※1 特別高圧:大規模な工場など、大量の電力を使用する施設で用いられる7000V超の電圧(直流・交流)のこと。
※2 低圧:一般家庭や商店などで用いられる直流で750V以下、交流で600V以下の電圧のこと。

ここで、他エリアの傾向を見てみましょう。図3は中国電力エリアの気温と電力需要の関係を示したものです。図3から、中国電力エリアでは、高需要期の日中(15時、18時)でも過去の同気温帯程度の需要を示しており、これを超えるほどの高需要とはなっていません。中国電力エリアのように、東京エリアと比べ高圧・特別高圧需要の割合が相対的に多いエリアでは、外出自粛の影響等による低圧需要の増加幅以上に工場の稼働停止等による特別高圧需要の減少幅の方が大きく、エリア需要全体としては過去の需要よりわずかに小さくなっていると考えられます。
また、深夜(1時)には、おおむね過去と同程度まで需要が戻っており、2回目の緊急事態宣言の対象となったエリアとの差が表れている可能性があります。

3.2021年は早い春の訪れ 低需要期の動向に注視
2021年は、桜の開花も東京で平年※3より12日早く、記録的に早い春の訪れとなりました。最新の見通しでは、5月の大型連休のころは平年より低温傾向ですが、5月中旬から7月にかけて平年より暖かい傾向となる見込みです。2020年4月は全国的に平年より降水量が多く低温傾向でしたが、2021年は足踏みすることなく春が過ぎ去り、初夏は間近となっています。
今回の分析結果から、日中は、需要の戻り傾向は続いているものの、エリアによって特別高圧需要の減少影響を受けて需要の低い状況が続いているエリアも見られました。また、2回目の緊急事態宣言の対象エリアでは、2021年1月以降の特に深夜の時間帯に、低い需要を示すことが分かりました。春~初夏は一年で最も低需要、かつ太陽光発電量は多い時期であり、エリア需要の余剰リスクが大きい時期です。2020年やそれ以前に比べて、エリア需要がどの程度低くなるか、引き続き動向に注視する必要があります。
※3 平年:1981~2010年の観測値の平均値。
※関連リンク
気象のプロだからこそできる高精度なエネルギー需要予測サービス
https://www.jwa.or.jp/service/weather-and-data/weather-and-data-02/
※本文中の電力エリア名表記について、正式な名称は以下のとおりです。
・東京電力エリア:東京電力パワーグリッドエリア
・中部電力エリア:中部電力パワーグリッドエリア
・中国電力エリア:中国電力ネットワークエリア
・四国電力エリア:四国電力送配電エリア
・九州電力エリア:九州電力送配電エリア
![]() | 一般財団法人 日本気象協会 環境・エネルギー事業部 エネルギー事業課 再生可能エネルギー推進グループ 気象予報士 渋谷 早苗(しぶたに さなえ) 神戸大学大学院(地球惑星科学専攻)修士課程修了。 電力・ガス需要の分析、日々の気象状況を踏まえたコンサルティングを行っている。 趣味は登山。山に登る時の天気は自分で予報する。 |
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