(防災レポート Vol.2)熊本豪雨の降水量の特徴と今後の見通しについて(速報)
Report
7月3日(金)から4日(土)にかけての熊本県南部を中心とする豪雨により被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
西日本から東日本に停滞する梅雨前線の影響により、7月3日(金)から4日(土)にかけて熊本県を中心に記録的な豪雨となり、河川の氾濫や堤防の決壊、土砂崩れなどが発生、熊本県と鹿児島県では大雨特別警報が発表されました。7月3日(金)から4日(土)にかけての降水量は、熊本県水俣市513.0ミリ、球磨郡湯前町の湯前横谷497.0ミリ、人吉市420.0ミリと、いずれも平年の1か月降水量に相当する量となりました。
日本気象協会は大規模な氾濫、浸水被害が発生した球磨川を対象に、国土交通省解析雨量 1)を分析して、今回の豪雨の特徴をまとめましたので、7月6日(月)16時現在の防災レポート(速報)としてご報告します。
1. 6時間、12時間雨量で近年の記録を大幅に上回る雨量
7月3日(金)0時から4日(土)24時にかけての3時間、6時間、12時間、24時間、48時間の各雨量および土壌雨量指数(土砂災害危険度を表す指標)の最大値を図1に示します。球磨川流域を含む熊本県南部では、6時間雨量最大値で200~500ミリ、12時間雨量で300~600ミリの雨量、24時間雨量で400~600ミリ超となりました。
また、これまでの観測データの既往最大値(過去の最大値)を100%として、今回の各時間雨量最大値との比較を行ったところ、ほとんどの降雨継続時間の雨量で既往最大を超過する100%以上の範囲が球磨川流域と重なることがわかりました(図2)。とりわけ、6時間雨量や12時間雨量では、既往最大比が150%以上となっている領域が見られ、記録的な雨量であったことがわかります。
日本気象協会が静岡大学牛山素行教授との共同研究で調査した、平成30(2018)年7月豪雨時の降水量と犠牲者の発生の関係(※)によると、既往最大比150%前後から犠牲者の発生数が急増する可能性が示されており、今回の豪雨災害でも同様に多数の犠牲者が発生することが懸念されます。
※本間基寛・牛山素行:豪雨災害における人的被害ポテンシャルの推定に関する一考察 ―平成30年7月豪雨を事例に―,第38回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.47-48,2019
2. 計画規模をはるかに上回る雨量
国土交通省解析雨量から、球磨川の横石地点(熊本県八代市)と人吉地点(人吉市)の上流の流域平均降雨量2)を算定し、計画規模雨量3)や想定最大規模雨量4)と比較を行いました(図3)。その結果、横石地点では、河川整備の目標となる計画規模の138%に相当する361.4ミリの降雨量となっていて、国土交通省において公表している想定し得る最大規模(想定最大規模)の降雨量にも匹敵する雨量となっていたことがわかりました。
3. 今後の雨の見通し(7月6日16時現在)
8日(水)にかけて大雨が長期化する恐れがあります。九州から東北にかけて局地的に激しい雨や非常に激しい雨が降るでしょう。雨雲が発達しながら次々と流れ込み、局地的には猛烈な雨が降る恐れもあります。
3日(金)からの大雨により、九州ではすでに球磨川や本城川で氾濫したり、土砂災害が発生したりするなど大きな災害が起こっています。今は災害の起こっていない地域でも、土砂災害や浸水、洪水の危険度が非常に高まっている所があります。また、中国地方から東海でも地盤の緩んでいる所や増水している河川があります。
梅雨前線による大雨が今後も長時間続き、新たな災害が起こる恐れがあります。土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒して下さい。また、竜巻などの激しい突風や落雷に注意が必要です。
今後もこまめに気象情報や自治体から出される避難情報を確認し、適切な行動をとるようにして下さい。日本気象協会では今後も豪雨に関するレポートを行っていきます。
本間 基寛(ほんま もとひろ) 一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 専任主任技師 北海道生 北海道大学理学部卒業,東京大学大学院理学系研究科修士課程修了 京都大学防災研究所特任助教(非常勤) 静岡大学防災総合センター客員准教授(非常勤) 博士(工学) 技術士(建設部門:河川、砂防及び海岸・海洋) 気象予報士 |
補足事項
1) 国土交通省解析雨量:解析雨量は国土交通省水管理・国土保全局、道路局と気象庁が全国に設置しているレーダー、アメダス等の地上の雨量計を組み合わせて、1時間の降水量分布を1km四方の細かさで解析したもの。(出典:気象庁HP)
2) 流域平均雨量の算出方法について:国土交通省解析雨量(1kmメッシュ)を用いて、基準点より上流を対象に流域界で囲まれるメッシュを算術平均したもの。
3) 計画規模雨量:河川整備において、超えることがあってはらない降雨量を設定したもの。この規模の雨が降っても氾濫(はんらん)が発生しないように治水対策が進められている。その降雨量は大雨事例を基に、確率計算により求める方法が一般的で、1/100~1/200確率降雨量としている。
4) 想定最大規模雨量:平成27年 5 月に水防法を一部改正し、激甚な浸水被害への対応を図るため、河川整備において基本となる降雨を前提とした洪水に係る浸水想定区域を、想定し得る最大規模の降雨を前提とした区域に拡充された。降雨量は、1/1000の確率降雨量とされている。
以上
PDFダウンロード:【日本気象協会レポート】(防災レポートVol.2)熊本豪雨レポート_