防災レポート2024 Vol.7 台風第10号に伴う今後の大雨・災害の見通し(第4報)
Report
日本気象協会は、台風第10号に伴う今後の大雨と災害の見通し(8月29日12時時点)に関する情報を、防災レポート(第4報)として発表します。
ポイント
・強い台風第10号は九州に上陸し、今後、西日本をゆっくりと東へ進む見込みである。台風の進む速度がゆっくりであり、西日本から東日本の太平洋側を中心に記録的な雨量となるおそれがある。
・九州、四国地方では、31日までの72時間雨量が800 mmを超え、既往最大比が150%を超えるところがある。愛媛県など普段から雨が多くない地域でも雨量が多くなるおそれがある。
・広い範囲で大規模河川の氾濫、深層崩壊や大規模な土石流などへの厳重な警戒が必要である。
強い台風第10号は8月29日(木)12時現在、天草市付近にあり、北へ時速15kmの速さで進んでいます。中心気圧は970 hPa、中心付近の最大風速は35 m/sです。台風は今後、進路を東よりに変え、西日本をゆっくりと東へ進む見込みです。暴風、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水や氾濫、高潮への厳重な警戒が必要です。
日本気象協会独自の「JWA統合気象予測(※1)」では、31日(土)までに予想される72時間雨量が第3報に引き続き、九州地方や四国地方の広い範囲で800mmを超え、最も多いところでは1,200mmに達すると予想されています。予想される雨量となった場合、これまでに観測された雨量の最大値との比(既往最大比※2)が150%を上回るところがあります(図1)。普段から雨が多くない地域でも雨量が多くなるおそれがあり、とくに愛媛県では既往最大比が200%に達する可能性があります。日本気象協会と静岡大学牛山素行教授との共同研究の結果(※3)によると、既往最大比が100%になると犠牲者が発生しはじめ、150%を超えると犠牲者の発生数が急増する可能性があることがわかっており、災害発生危険度が極めて高いことから厳重な警戒が必要です。
西日本から東日本の太平洋側では、台風に伴う暖かく湿った空気が流れ込み、既に大雨となっているところがあります。29日12時時点の48時間積算雨量は、鹿児島県屋久島で1,000mm、鹿児島県や宮崎県で600~800mmに達しているところがあります(図2)。鹿児島県の薩摩地方では、48時間雨量の既往最大比が120%に達しているところがあり、災害の危険度が高まっています。
台風の進む速度がゆっくりであることから、9月2日(月)にかけて西日本・東日本で雨が降り続くことが予想されています(図3)。30日(金)には九州・四国・中国・東海地方、31日(土)から9月2日(月)にかけては四国・近畿・東海地方を中心に大雨となることが予想されています。大雨が長く続くことにより、河川の氾濫や土砂災害に厳重な警戒が必要です。
表1は、中国・四国・九州地方の国管理河川のうち、河川の流域平均雨量の予測値が計画規模降雨(※4)を超過または匹敵する可能性があるものを示したものです。九州地方では29日(木)~30日(金)にかけて、四国地方では30日(金)~31日(土)にかけて、国管理の大きな河川を含めた多くの河川で現状の整備水準を超える規模の雨量が予想されています。河川の増水や氾濫に厳重な警戒が必要です。市町村が作成している洪水ハザードマップなどを早めに確認し、浸水の可能性や避難する場所・経路などを把握するとともに、避難への備えを行ってください。なおここでは示していない河川でも増水や氾濫への警戒が必要ですので、最新の気象情報や河川情報を確認してください。
図4(左)は、8月28日(水)~9月2日(月)までの6日間積算雨量予測です。今回の台風第10号では、台風がほぼ停滞し降水量が多くなった場合の想定として、九州・四国・近畿南部・東海地方と広い地域で1,000mm以上が予想され、特に四国地方の最も多いところでは2,000mmを超える可能性があります。
近年、降り始めからの雨量が2,000mmに達した事例として、平成23年台風第12号(紀伊半島大水害)があります。この台風では、8月30日から9月5日にかけて紀伊半島の南東部を中心に広い範囲で1,000mmを超え、一部の地域では2,000mmを超える記録的な大雨となりました(図4右)。この台風により、奈良県、和歌山県、三重県をはじめ、全国で死者・行方不明者が98名となり、広い範囲で被害が生じました(※5)。とくに、降水量が多くなった奈良県、和歌山県では「深層崩壊」と呼ばれる大規模な土砂崩れが多発し、河道閉塞(土砂ダム)や道路の寸断が生じました。
今回の台風で大雨が予想されている九州南部や四国地方は、深層崩壊の頻度が高いと言われている地域に該当します。これらの地域では、降り始めからの総雨量が1,000mmを超えるおそれがあり、深層崩壊や大規模な土石流の危険性があります。山間部を中心に、道路の寸断による集落の孤立や、河道閉塞による土砂ダムの形成などに厳重に警戒してください。
台風の進路予報にはまだ幅があります。台風の進路によっては雨量の予測が大きく変化する可能性がありますので、最新の気象情報を確認してください。
本情報は2024年8月29日12時時点の予測資料から作成したものです。最新の気象情報をご確認ください。
※1 JWA統合気象予測:https://www.jwa.or.jp/news/2023/02/19157/
※2 既往最大比:解析雨量が1kmメッシュ化された2006年5月以降に観測された雨量の最大値との比のこと
※3 本間基寛,牛山素行:豪雨災害における犠牲者数の推定方法に関する研究,自然災害科学,Vol. 40,特別号,pp. 157-174,2021.
※4 計画規模降雨:河川整備の目標とする降雨。この規模の雨が降っても氾濫(はんらん)が発生しないように治水対策が進められている。その降雨量は大雨事例を基に、確率計算により求める方法が一般的で、1/100~1/200確率降雨量としている。
※5 総務省消防庁:平成 23 年台風第 12 号による被害状況及び消防機関の活動状況等について(最終報),2017年8月29日発表.
※日本気象協会公式の天気予報専門メディア「tenki.jp」(https://tenki.jp/)では、「警報・注意報」「地震情報」「津波情報」「火山情報」「台風情報」などの防災情報を24時間365日提供しています。
本間 基寛(ほんま もとひろ) 一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 担当部長 京都大学防災研究所特任助教(非常勤) 静岡大学防災総合センター客員准教授(非常勤) 博士(工学) 技術士(建設部門:河川、砂防及び海岸・海洋) 気象予報士 |
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