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(気候変動コンサルティングレポートVol.1)気候変動リスクを減らすには
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日本気象協会は、1950年の創業以来培ってきた気象・水文・環境分野に関する豊富な知見・経験を活かして、近年問題になっている気候変動の各種支援を行っています。今回のプロフェッショナルパートナーズレポートでは気候変動の影響とその対策を取り上げます。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から発表された最新の第5次評価報告書(第1作業部会、2013年発行)では、世界全体の気温は1880年から2012年の間に約0.85℃上がったことが報告されています(図1)。この気候変動による気温上昇は、人間の活動による温室効果ガスの排出増加が一因であると言われています。

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図1.1850 年から2012 年までに観測された陸域と海上とを合わせた世界平均地上気温の偏差(黒色、青色、橙色で推定データ3種を示す)。 上図:年平均値、下図:10 年ごとの平均値(黒色のデータセットについては不確実性の推定を含む)。1961~1990 年平均からの偏差  IPCC 第5次評価報告書第1作業部会 政策決定者向け報告書日本語訳より抜粋

気候変動によるさまざまな影響を扱うIPCCの第2作業部会からは、第1作業部会報告書の翌年2014年に第5次評価報告書が発表されました。この報告書では、世界的な気温上昇が既に河川や生態系に影響を及ぼしていることともに、今後さらに農業、健康、企業活動など、他の分野での影響が顕著となることが懸念されます。

<緩和策と適応策>

このような気温上昇を軽減するための「気候変動の緩和策」として、二酸化炭素などの排出削減や吸収量増大が広く行われています。しかし、このような緩和策を積極的に行っても当面の気温上昇は止められません。このため、現在ではもう一つの重要な気候変動対策として「気候変動の適応策」が推進されています。この適応策は、気候変動が起きても安心安全な社会を維持するための対策です。国は、この新たな対策を推進するために、2018年には気候変動適応法を施行しました。この気候変動適応法では、国、自治体、事業者(企業など)、国民(個人)と、さまざまな主体が関わるものとされ、社会のさまざまな断面で対応が迫られています。

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では、温暖化した社会に適応するためには、何をすればよいのでしょうか。
大まかに分けると、下記のような4つのステップとなります。

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個別の適応策の検討までには、詳細なデータ解析などが必要な場合もあります。しかし、まずはどのような気候変動リスクがあり得るか、そのリスクについて自身への重要性などを認識することが大切です。
ここでは、Step1の気候変動による自分自身(個人、企業、自治体など、さまざまな主体)へのリスクについて、考えてみましょう。

<気象・海洋への影響>

日本付近では、主に気象と海洋の下記の3つの変化が想定されます。これらが引き起こすリスクの対象を押さえるとよいでしょう。

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豪雨の増加も海面水位の上昇も、気温の上昇が一因となる現象です。IPCCで示された生態系や食糧生産への影響も、多くはこのような気象や海洋での変化が、単独もしくは複合的に波及したものです。これまで研究機関などで取り上げられていない分野でも、
・気温や豪雨、海面水位などで被害を受けた経験がある
もしくは
・生産量、需要などがそれらと連動している
と考えられる場合は、今後の気候変動による影響の可能性があるといえるでしょう。

<気候変動のリスクがある分野>

では、どのような分野で気候変動の影響があるのでしょうか。
環境省では、概ね5年ごとに下記の7つの分野について、国内における気候変動の影響評価の最新知見をまとめています。これらの分野に分けて、個人であれば自分や仕事、企業であれば事業や資産について、整理してみるとわかりやすいかもしれません。

気候変動による影響分野およびその事例

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企業であれば、単に産業経済活動分野だけでなく、仕入れる作物への影響(農林水産業分野)、工場への浸水の被害(自然災害分野)、熱中症による社員の健康被害(健康分野)などが、リスクのある分野となります。これらのすべての分野に目を向けることで、より総合的な気候変動リスクを把握することが可能となります。前述の「気温上昇」「豪雨増加」「海面上昇」の3点で、関係する影響を挙げてみましょう。

<影響の時間的変化>

日々のさまざまな気象が、長期間にわたって積み重なったものが「気候」です。この気候の変動による影響も、数十年から数百年の長期間の変化として現れます。例として、気温の長期の変化を見てみましょう
(図2参照)。
この変動による影響は、①長期的なトレンドとして見られる平均的な変動が与える影響(下図の橙色折れ線グラフ)と、②平均的な傾向の変化などにより(ある一定の閾値を超える非常に暑い日など)頻度が低い極端な現象が現在より起きやすくなる影響(下図の赤色棒グラフ)、の2つに分けられます。

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図2.1897年から2019年までの熊谷地方気象台の年平均気温と猛暑日日数。

これらの変化を大まかに緩やかな変化(a)と極端な現象の頻度変化(b)の2つに側面に分けて考えてみましょう。

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<緩やかな変化の例>

「a.緩やかな変化」について、下記のような例を考えてみましょう。


<農業>
現在、作物Aという品種が特産の地域で、現在収穫量が多く、品質も良いことで評判でした。気温が上がるにつれ、徐々に収穫量が減るリスクがあります
→ この場合は、現在は極端な猛暑の年に影響が出る程度です。将来の気温上昇で、本格的な影響が顕著になると考えられます。将来に向けた対策を考えることになるでしょう。
この場合、作物Aの生産者にとっては商品へのリスクです。しかし、作物Aを使った製品を作る企業では、仕入れのリスクとなります。

<国民生活>
桜の開花時期が徐々に早くなり、桜の開花に合わせたイベントの時期が変更になる。
→ 既に開花時期の変化は各地で報告されています。現在から開花時期の変化に即したプランを考えることができます。

 

緩やかな変化は、高温の年に起きていた特異的な現象が、毎年起きる定着した現象になると考えることもできるかもしれません。

<極端な現象の頻度変化の例>

一方、「b.極端な現象の頻度変化」は、非常に強い雨や、強大な台風など、発生回数はそれほど多くないものの、一旦起きると被害が大きい現象を主な対象としています。実際には、平均的な気温上昇により、極端な豪雨がより強くなることだけでなく、既に経験している現象の頻度が高まるケースも多いと思います。

以下の例を考えてみましょう。

<自然災害>
年に1回程度の極端な豪雨の頻度が、年に1.5回程度に増えた。
→ 1回あたりの雨量が変わらなければ、対応は大きく変えずに、頻度を見越した予算措置など、対策準備をとることができます。

豪雨では1回あたりの降水量を考慮すべき場合もあります。しかし、頻度が主な影響要因であれば、対策の考え方は大きく変わらず、頻度に対する適応を考えることになるでしょう。河川などは、もともと長期的な発生頻度を踏まえた計画となっています。これからは、さらに気候変動の影響も考慮した計画が不可欠となります。

<複合的な影響>

実際には下記の緩やかな変化と頻度増加の複合的な影響として、より大きな影響を与えることも想定されます。複合的な影響は被害の予測が難しく、甚大な被害を及ぼす可能性もあるため、注意が必要です。

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気候変動の影響は、これまで大学や研究機関での検討が多く行われてきました。現在は、研究段階から、実社会での適用に向けたフェーズに入ってきているといえます。研究の場合は、データの収集などを厳密に行う必要がありますが、現実の世界ではデータなどが揃わない状況で、何らかのリスクの把握が求められるケースもあると思います。まずは、研究成果などを活用しながら気候変動による影響を確認し、将来に備えることが必要です。

上記で見てきたように、気温上昇、豪雨の頻発などとの関係、対象分野、時間的な現れ方などを参考に、まずは自身がどのような気候リスクを抱えているか整理してみてはいかがでしょうか。
さらにその上で、詳細な調査に基づく対策が必要な場合は、日本気象協会にご相談ください。日本気象協会が環境コンサルタントとして具体的な影響や適応策の検討をお手伝いいたします。企業内での気候変動の影響や適応策に関するセミナーも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

気候変動コンサルティングレポートの第2回では、地域に即した影響の把握と対策について考えます。既に高温に対する環境が整った地域と、整っていない地域、積雪による融雪を利用している地域など、南北に長い日本では地域に即した影響の把握と対策が不可欠です。気候変動コンサルティングレポートの第2回では、適応策の検討で欠かせないポイントとして、「地域の状況の把握と対策」について取り上げます。

 

 

◆今回のプロフェッショナルパートナーズ・レポート執筆者

一般財団法人 日本気象協会
環境・エネルギー事業部 環境解析課 主任技師
前田 芳恵(まえだ よしえ)


フロリダ州立大学大学院(気象学専攻)Ph.D.
大学勤務、気象モデル・統計モデルによるシミュレーション・予測等の業務経験を経て、 現在は気候変動の影響、適応策の調査等を担当。