(気候リスクマネジメントサービスレポートVol.1)「悪天候時の輸送安全を支援する気象情報」利用者の声にみる物流企業、荷主企業への「健康経営」ノススメ
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日本気象協会では、2020年6月1日(月)から「悪天候時の輸送安全を支援する物流向けサービス」として「GoStop(ゴーストップ)マネジメントシステム」を物流企業や荷主企業の方へ提供しています。提供1年目の成果について、導入企業からいただいた反響と併せてご報告いたします。
日本気象協会では本年度、GoStopマネジメントシステムを「ホワイト物流」推進運動(注1)や「異常気象時における輸送の目安(措置の目安)」(注2)、「DXレポート」(注3)を意識している物流企業、荷主企業に対して、「健康経営」(注4)のDXツールとして気象コンサルティングを行っていきます。
Ⅰ.過去、気象により輸送影響が発生した例
2016年台風第10号
(参考記事)Uターン台風 豪雨被害・東北太平洋側に上陸は史上初
https://tenki.jp/suppl/tenkijp_labo/2016/12/08/18231.html#sub-title-c
2016年8月の北海道には、17日に台風第7号、21日に第11号、23日に第9号と3個の台風が上陸しました。これは1951年の統計開始以来はじめて北海道に1年で3個の台風が上陸した記録となります。この後8月30日に2016年台風第10号が岩手県に上陸します。これらの台風の影響でJR北海道の鉄道網は寸断され、旅客列車の運休に加え貨物の滞留が発生しました。
平成30年7月豪雨
(参考記事)大雨が継続した理由を解説<平成30年7月豪雨>
https://tenki.jp/suppl/kazukoyasuno/2018/07/12/28273.html
2018年6月28日以降、梅雨前線が日本付近に停滞し、また29日には台風第7号が南海上に発生・北上して日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け、台風第7号や梅雨前線の影響によって大雨となりやすい状況が続きました。このため、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となり、各地で甚大な被害が発生しました。前線や湿った空気の影響で、6月28日~7月8日(9時)までの総降水量が四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリ、九州北部地方で900ミリ、近畿地方で600ミリ、中国地方で500ミリを超えるところがあるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となる大雨となったところがありました。また、九州北部、四国、中国、近畿、東海地方の多くで24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位となるなど、これまでの観測記録を更新する大雨となりました。
Ⅱ.GoStopマネジメントシステム 1年目の成果
GoStopマネジメントシステムサービスの展開
サービス開始の2020年6月1日から4ヵ月間は無料トライアル期間を設け、120社以上の企業で豪雨や台風時に活用いただきました。現在は物流企業や荷主企業など数10社で活用されています。導入企業から要望を受けた場合はコンテンツの開発を行い、サービス開始以降、新規に開発・改良したコンテンツは8件に及びます。
異常気象時における物流事業者の対応 主な事例
1.2020年台風第10号
台風第10号の発生10時間前から「台風対策支援情報」を発表し、進路予測や暴風・大雨の影響エリアに関する情報を提供しました。この情報を使い物流事業者は、台風が九州地方に最接近する7日前の段階で「代替輸送への切り替え判断」や、最接近4日前での「納品先への連絡」「社内のリスク共有」、さらに、最接近の3日前時点での「輸送・配送の停止決定」などを行い、GoStopマネジメントシステムは異常気象時の難しい輸送判断に活用されました。
2.2020年度の大雪
2020年12月の関越道立ち往生の要因となった大雪時は立ち往生発生の5日前から「大雪対策支援情報」発表し、冬期初めの大雪に対して注意喚起を行いました。その他、年末年始の日本海側を中心とした大雪や2021年1月の北陸道立ち往生の要因となった大雪等で早期に「大雪対策支援情報」を発表し、大雪や吹雪によって輸送に影響がある時間帯や路線についてリスク情報の提供を行いました。物流事業者は、輸送影響リスクを事前に把握できたことで、出庫時間や走行ルートの変更など、リスクを回避した最適な輸送計画を作成することができました。それに加え、社内や輸送委託先への注意喚起、荷主企業および納品先への事前相談にもGoStopマネジメントシステムは有効に活用されました。
Ⅲ.GoStopマネジメントシステム 導入企業からの反響
以下は、2020年6月のサービス開始以降、導入企業から寄せたられた声をまとめた内容となります。「輸送計画作成の効率化に役立った」、「社内説明や荷主との交渉資料として役立った」、「ドライバーの安全安心の向上に活用できた」など、改善・改良に繋がったという意見が多く寄せられました。
Ⅳ.物流企業、荷主企業の「健康経営」に資するDXツールとして
物流分野では、輸送計画の効率化やドライバーの安全・安心確保における気象情報の利活用は始まったばかりです。日本気象協会はGoStopマネジメントシステムを物流事業のDX推進のためのツールとして利用いただくことで、物流企業、荷主企業の「健康経営」に資すると考えています。
1.輸送判断の均質化・見える化
GoStopマネジメントシステムの導入により気象情報の収集・整理に費やす時間を削減し、より高度な輸送判断に取組むことが可能となります。また、これまでの各担当者の経験則に頼った判断から、気象会社の高精度な予測に基づく客観的な判断にシフトすることで、判断過程や根拠の均質化・見える化に貢献します。
2.異常気象時の円滑かつ効率的な輸送計画作成
GoStopマネジメントシステムでは、気象、輸送影響リスクをひと目で参照できるため 、多くの情報を網羅的に把握することが可能となります。また、気象情報をもとに判定したリスク指標の提供は 、最適な走行ルートや配送時間を考慮した輸送計画の作成につながります。さらに、各リスク指標を社内およびトラックドライバーなどの関係者間で共有することで、円滑な情報共有が可能となるなど生産性向上にも貢献します。
3.物流事業者と、荷主企業や納品先との円滑な意思決定
物流事業者が異常気象時に、国土交通省が定めた『措置の目安』をもとに輸送判断を行う場合、荷主企業や納品先から納得を得るため、判断の根拠を適切に示す必要があります。GoStopマネジメントシステムの輸送影響リスクなどの情報は、荷主企業や納品先に対して客観的な根拠資料として共有・活用することが可能です。 輸送判断や配送時間の変更などの根拠を明確に示すことで、円滑な意思決定に貢献できます。
4.異常気象に伴う輸送物の損失リスクの回避
異常気象による輸送影響リスクが事前に見込まれる場合に、迂回ルートの選択や輸送手段の切り替え、出庫時間の繰り上げなど、リスクを回避した安全な輸送計画を作成することで、トラックの横転や水没等による輸送物の損失回避にも貢献できます。
5.トラックドライバーの安心安全確保
台風や大雪等の異常気象に伴う輸送影響リスクを事前に把握し、リスクを回避した走行ルートの選択や輸送の中止・時間変更の判断を早期に実施することは、トラックドライバーの安全確保や業務に対する安心感、労働環境の向上につながります。気象会社による客観的な根拠資料を用いて、荷主企業や納品先に輸送計画の変更などを納得いただくことで、輸送の強要の防止にも貢献できます。これらの取り組みは、「ホワイト物流」推進の考え方に合致し、トラックドライバーの安全と安心につながります。
Ⅴ.気象のプロだからできる、道路上における輸送影響リスク情報の提供
気候変動にともない、豪雨や台風、豪雪など、経験したことのない異常気象のリスクが顕在化してきています。
気象は将来を物理学的に予測出来ます。気象予測を活用いただくことで、「事前段階」からのリスク把握によりさまざまな対策がとれるようになります。物流の事業に携わる事業者の方へ、気候変動へのレジリエンスとして、日本気象協会は物流事業に特化したGoStopマネジメントシステムをご提供しています。
本レポートをご覧いただき内容について不明な点などがございましたら、ご遠慮なく日本気象協会にご相談ください。
<ご参考>
■GoStopマネジメントシステムについて
GoStopマネジメントシステムは、近年特に激甚化している気象災害に対して、物流事業者の方から事前に対策を行いたいという要望を受け誕生しました。GoStopマネジメントシステムは全国の高速道路・国道を対象に、気象による輸送影響リスクを悪天候の72時間前から、地図や表によりひと目で確認できるWebサービスです。各路線のIC(インターチェンジ)や区間ごとに、1時間ごとの輸送影響リスクが詳細に把握できるため、悪天候時の配送計画の作成や輸送可否の判断、ドライバーの安全確保に役立ちます。
■GoStopマネジメントシステム情報提供画面イメージ
■GoStopマネジメントシステムの3つの特徴
1.高速道路や主要幹線道路がどの場所でどのような気象によって輸送影響リスクが高いのか、ひと目で確認可能 (図1)
2.走行する高速道路・国道についてICごと・区間ごとに、72時間先まで1時間単位の輸送影響リスクを表示 (図2)
3.台風や大雪等の異常気象が発生した際には、日本気象協会が保有する独自技術を使って示す詳細な台風進路予測や雨量、暴風、降雪量予測などを、運行タイムラインに沿って最大7日前から提供
■GoStopマネジメントシステム サービスロゴ
注1:「ホワイト物流」推進運動について
https://white-logistics-movement.jp/outline/
注2:異常気象時における 輸送の目安(措置の目安)について
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000210.html
注3:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
注4:健康経営の推進について 令和2年9月 経済産業省ヘルスケア産業課
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
◆今回のプロフェッショナルパートナーズ・レポート執筆者
一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 交通ソリューション課 寺田 三紗(てらだ みさ) 大学で航空宇宙学を専攻。 授業で気象学を学んだことがきっかけで気象予報士に興味を持つ。 2016年台風第10号で高齢者施設の入所者が亡くなった報道を受け 「気象災害で亡くなる人が1人でも少なくなる世の中にする お手伝いがしたい」と決意。 気象会社への就職を希望し、2018年日本気象協会に入社。 入社後は交通ソリューション課に所属し道路管理者や 鉄道事業者に対して気象情報を提供する業務に従事しながら、 2020年に物流向けサービス「GoStopマネジメントシステム」を 立ち上げる。 メインテーマである「ドライバーの安全確保」のため、物流分野での 気象情報活用推進に取り組む。 |
以上
PDFダウンロード:【日本気象協会レポート】気候リスクマネジメントサービスレポートVol.1_