(防災レポート Vol.4)九州北部、岐阜県・長野県の大雨の特徴(速報)
Report
日本気象協会は、九州北部、岐阜県・長野県の大雨の特徴と今後の大雨の見通し(7月8日16時時点)に関する情報を、防災レポート(速報)として発表します。
ポイント
・九州北部では、既に近年の過去最大雨量を大きく上回っており、筑後川では氾濫災害が発生した。
・既往最大比150%を超える大雨により、岐阜県・長野県では、氾濫や浸水被害、土砂災害が発生。
・引き続き梅雨前線が本州付近に停滞するため、今後も大雨が発生する可能性が高い。
1. 九州北部最大48時間雨量、72時間雨量で近年の記録を大幅に上回る雨量
梅雨前線が本州付近に停滞し、広い範囲で大気が非常に不安定な状態が続いています。九州北部地方では記録的な大雨となっており、国土交通省解析雨量1)から、筑後川夜明ダム上流域の流域平均雨量2)を算定したところ、累加雨量は600ミリを超えています(図1)。7月6日~7日の2日間雨量は554ミリで、これは筑後川の計画規模雨量3)521ミリ(48時間雨量)を超えています。
本日9時時点の最大48時間雨量では500ミリ、最大72時間雨量では700ミリを超える地点が出ており、これまでの観測データの既往最大値(過去の最大値)に比べて150%を超えているところもあります(図2)。
これまでに降った大雨により筑後川や大分川が氾濫、福岡県を中心に各地で浸水が始まっています。既に降った大雨の影響で、雨脚が強まると河川の水位が急激に上昇したり、土砂災害が発生しやすい状況となっています。避難などされている方々は、引き続き安全な場所へ留まることが必要です。また、復旧作業にあたられる方々は、今後の雨量情報を注視していただき、身の安全の確保を最優先に対応にあたってください。
2. 岐阜県、長野県では既に記録的な大雨
梅雨前線が本州付近に停滞し、広い範囲で大気が非常に不安定な状態が続いています。岐阜県、長野県では記録的な大雨となり、本日9時時点の最大48時間雨量では500ミリを超えた地点が出ており、これまでの観測データの既往最大値(過去の最大値)に比べて150%を超えたところもあります(図3)。
これまでに降った大雨により、岐阜県下呂市付近において飛騨川が氾濫し、浸水しました。既に降った大雨の影響で、雨脚が強まると河川の水位が急激に上昇したり、土砂災害が発生しやすい状況となっています。岐阜県、長野県でも避難などされている方々は、引き続き安全な場所へ留まることが必要です。また、復旧作業にあたられる方々は、今後の雨量情報を注視していただき、身の安全の確保を最優先に対応にあたってください。
日本気象協会が静岡大学牛山素行教授との共同研究で調査した、平成30(2018)年7月豪雨時の降水量と犠牲者の発生の関係(※)によると、既往最大比150%前後から犠牲者の発生数が急増する可能性が示されており、今回の豪雨災害でも同様に多数の犠牲者が発生することが懸念されます。
※本間基寛・牛山素行:豪雨災害における人的被害ポテンシャルの推定に関する一考察 ―平成30年7月豪雨を事例に―,第38回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.47-48,2019
3. 今後の雨の見通し
引き続き、梅雨前線が本州付近に停滞するため、今後も大雨が発生する可能性があります。昨夜から断続的に活発な雨雲がかかっている東海地方や甲信地方では降り始め(3日午前11時)からの雨量が所々で500ミリを超える記録的な大雨になっています。これからあす9日、あさって10日にかけても強弱を繰り返しながら断続的に雨が降るとみられます。あす9日朝までに予想される24時間雨量はいずれも多いところで静岡県では300ミリ、岐阜県と愛知県では200ミリ、長野県南部では180ミリとなっています。また、九州地方では、8日夜にも九州南部から激しい雨のエリアが広がってくる見込みです。
なお、梅雨末期の大雨の特徴として、線状降水帯の発生などによる局所的な集中豪雨では、数時間前にならないとその発生や雨量を正確に予測が難しいことがあります。
補足事項
1) 国土交通省解析雨量:解析雨量は国土交通省水管理・国土保全局、道路局と気象庁が全国に設置しているレーダー、アメダス等の地上の雨量計を組み合わせて、1時間の降水量分布を1km四方の細かさで解析したもの。(出典:気象庁HP)
2) 流域平均雨量の算出方法について:国土交通省解析雨量(1kmメッシュ)を用いて、基準点より上流を対象に流域界で囲まれるメッシュを算術平均したもの。
3) 計画規模雨量:河川整備において、超えることがあってはらない降雨量を設定したもの。この規模の雨が降っても氾濫(はんらん)が発生しないように治水対策が進められている。その降雨量は大雨事例を基に、確率計算により求める方法が一般的で、1/100~1/200確率降雨量としている。
<ご参考>
(防災レポート Vol.3)梅雨前線に伴う今後の大雨の見通し(速報)
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10414/
(防災レポート Vol.2)熊本豪雨の降水量の特徴と今後の見通しについて(速報)
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10378/
本情報は 2020 年7 月 8 日 16 時時点の予測資料から作成したものです。最新の気象情報は 日本気象協会の天気予報専門サイト「tenki.jp」http://www.tenki.jp/ でご確認ください。
一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 防災マネジメント課 グループリーダー 技術士(総合技術監理部門、建設部門)、気象予報士 安部 智彦(あべ ともひこ) 名古屋大学土木工学科大学院(海岸海洋工学専攻)修士課程修了 ダム管理向けの降雨予測・流入量予測システム構築・運用、土砂災害向けの降雨解析業務等の防災関連業務を行っている。 |