(SDGsレポートVol.6) IPCCの気候変動に関する最新報告書のポイント 〜過去2000年間で前例のない速度で気温上昇中~
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今夏、世界各地で気象災害が相次ぎました。7月はカナダやアメリカ西部の広い範囲で記録的な酷暑となり干ばつ及び山火事が発生する一方、ドイツやベルギーを中心とした西ヨーロッパや中国河南省では豪雨による水害が発生しました。日本でも8月は広いエリアで降雨量が増え、各地で被害が出たことは記憶に新しいことでしょう。このような極端な気象現象は世界的に増えています。緊張感が高まる中、8月9日にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は8年ぶりに第6次評価報告書(AR6)のうち自然科学的根拠についてまとめた報告書を公開しました。この報告書は66ヵ国200名以上の専門家が参加し作成された透明性が高いもので、気候変動の現状を把握するための基礎テキストのようなものです。今地球はどうなっているのか、それによって我々の経済活動や暮らしはどう変わっていくのか。
日本気象協会SDGsレポート6回目は企業、個人の皆さんと「気候変動をどう捉えてアクションしていくのか」について考えていきたいと思います。
1.気候変動についての最新報告書注目ポイント
今回の報告書で注目すべきポイントは「地球温暖化の原因は人間の活動によるものだ」と断定したことです。これまではあくまでも人間の活動による影響が強いという表現でしたが、今回は「疑う余地がない」と強い言葉で表現されています。そもそも気候変動の要因は「自然起源」と「人為起源」の大きく2つがあり、「自然起源」は太陽活動の変化や火山の噴火などの影響、「人為起源」は化石燃料利用によるCO2含む温室効果ガス排出増や森林伐採、土地利用の変化による吸収源の減少など人間活動の活発化による影響です。
また報告書によると、少なくとも過去2000年間で前例のない速度で気温は上昇しており、直近10年(2011年~2020年)の世界各地での地表面温度は産業革命前(1850年~1900年)に比べて1.09℃上昇しました。前回の第5次報告書で報告された平均気温の上昇0.87℃(2006年~2015年と産業革命前との比較)から更に上がっています。下の図1では平均気温上昇の変化を示しており、自然起源のみの場合と人間活動による影響を加えた場合で分かりやすく表示されています。
パリ協定では「産業革命前より気温の上昇幅を1.5℃以内に抑える」ことを目標に掲げていますが、今回の報告書では2021-2040年に1.5℃に達する可能性が非常に高いと指摘しています。ちなみに1.5℃という数字は日々の天気予報の前日気温差などを参考にすると「あまり影響がない」と感じるかもしれませんが、1.5℃まで上昇すると例えば50年に1度起こるような暑い日が今より2倍発生すると予想されており、2℃上昇すると3倍になると予想しています(図2)。また、今よりも地球の水循環が活発化して、地域によっては今よりも雨の頻度が高くなり、非常に強い雨が降るとも予想されています。
2.根本から見直して変革していくタイミング
気候変動への対策はSDGs17の目標の中の一つとして掲げられていますが、他の目標に大きく影響しています。例えば人間活動によるCO2排出量のうち、約56%を陸と海が吸収しています。海が大量のCO2を吸収することにより海洋の酸性化が叫ばれており、水温上昇と共に海洋生物に影響を及ぼしています。また乾燥地帯では高温による干ばつや山火事の発生により陸域生態系の減少や変化が起きています。それらによって採れるものや食べられるものが地域によっても限定されていき、結果的に飢餓や貧困にもつながります。つまり他のSDGsの目標を達成していくためにも大きな要になるということです。
今回のIPCC第6次報告書では人間にとって不都合と思われることを起こしている要因は地球ではなく人間の活動だということをはっきりと明示しています。現状をしっかり知って受け入れた上で過去を責めるのではなく「ではどうするか?」と前を向いてちいさな一歩でも一人一人が変わっていく時だということを強く言っているように私には感じられました。「気候変動」と聞くとあまりにも大きくて難しく感じるかもしれませんが、「自然(環境)と自分はどう調和して生きていきたいのか」という観点で見るともう少しイメージしやすくなるかもしれません。我々は自然の力の恩恵を受けて生かされています。そのシンプルなことに立ち返り目を向けていくことが難しい手段を考える前に大切なのではないでしょうか。
3.データや解析力で企業の気候変動対策をサポート
毎日のように「気候変動」という言葉をニュースなどの報道で目にするようになり、できうる対策を始めている企業も多いのではないでしょうか。実際に事業活動で排出されるCO2や他の温室効果ガスを減らす取り組みや今後も増えていくであろう気象災害に向けたリスク対策、またそれらを支援するサービスの検討など多岐に渡るかと思います。一方あまりにも課題が大きいため「何から取り組めば良いのか分からない」という企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本気象協会では数年先、数十年先の気候データや調査解析力を活かしながら長年にわたり国や地方自治体、企業に対して気候変動の影響予測や気候変動緩和策・適応策に関する調査・研究支援を実施してきました。例えば企業や工場・原料生産エリアにどのような気象リスクがあるのかシミュレーションや調査を行った結果を提示することで、企業における工場の災害対策計画の策定や原材料生産エリアの変更計画等のサポートを行っています。
また、気象データを使った需要予測を行い、需給の最適化や物流方法の変更などをコンサルティングすることで事業活動から出る不要なCO2排出量の抑制および利益率の向上をサポートしています。
数年先や数十年先の社会を見据えて大きく経営計画を見直していくことも、目の前の効率化により不要なCO2やコストを削減していくこともいずれも企業活動において大切です。
日本気象協会では創業以来70年間で培った高精度なデータや解析力、コンサルティング力を生かして短期的、長期的ニーズにお応えしつつ気候変動対策を支援してまいります。
4.eco×ロジ プロジェクトが掲げるSDGsの目標
eco×ロジ プロジェクトは2017年から【食品ロス・廃棄ロス削減】【CO2の排出削減】という課題に対して事業を行ってきました。SDGsでは「12:つくる責任つかう責任」、「13:気候変動に具体的な対策を」に当たります。
上記2つの目標に重きを置きながら、「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「8:働きがいも経済成長も」、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「17:パートナーシップで目標を達成しよう」、以上4つの目標も同時に意識して活動しています。
日本気象協会は気象を扱うプロ集団として、今後も気象の力で社会の持続的な発展に貢献していきます。また、目標を達成するためには一人一人の意識向上が最も大切です。より多くの方に地球環境に意識を向けていただき、SDGsの目標を念頭に置きながら自然と調和できる社会づくりを同時に推進していきます。
一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課 SDGsプロモーター 古賀 江美子 奈良県出身。小さい頃から自然に囲まれた生活を行う。 学生時代、ドイツでの農地開墾ボランティアや自然豊かなワシントン州立大学への留学を通して「異なるバックグラウンドへの相互理解の構築と連携」を体験的に身につける。 卒業後、上京して便利さと自然のバランスに違和感を覚え、会社員業務の傍ら自然に対する学びの体系化を目指して物理学や東洋哲学など様々な領域の学問を独習。 自らの学びを実現する場として2013年日本気象協会に入社。「eco×ロジプロジェクト」に参画し、気候変動や食品ロス、廃棄ロスの根深い問題に取り組む。 「ステークホルダー間の相互理解と連携」及び「一人一人の意識向上と行動変革」をテーマに、企業間連携の企画推進及び広報活動を行っている。 |
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