(エネルギー需要分析レポートVol.6)気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~昨年より長い冬となった2021年 電力需要は増加傾向~
Report
エネルギー需要分析レポートでは、日本の電力需要に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響について、気象の専門家の観点から考察しています(Vol.1~5)。エリア電力需要に新型コロナウイルスの影響が見られるようになった2020年春から約2年が経過しました。2020年5月をピークに複数エリアで約10%減少したエリア電力需要は、その後戻り傾向となりましたが、時間帯別に見ると夜間需要は低い傾向が続きました(Vol.1~3)。 また2021年は、春にまん延防止等重点措置、夏に緊急事態宣言の発出がありましたが、電力需要の低下幅は2020年時より小さいことが分かりました(Vol.4~5)。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大から二度目の冬となる2021年11月~2022年3月のエリア電力需要の変化について考察します。
エネルギー需要分析レポートVol.1(2020.06.25発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~電力需要は通常時の約10%減~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/06/10130/
エネルギー需要分析レポートVol.2(2020.07.20発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~緊急事態宣言解除後、全エリアで電力需要は増加傾向~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10447/
エネルギー需要分析レポートVol.3(2020.11.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~全エリアで電力需要は戻り傾向。夜間は低需要が続く~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/11/11705/
エネルギー需要分析レポートVol.4(2021.04.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~日中の需要は戻り傾向 夜間需要には緊急事態宣言の影響も~
https://www.jwa.or.jp/news/2021/04/13112/
エネルギー需要分析レポートVol.5(2021.08.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~昨年同時期より需要は増加 エリアや時刻による差が明瞭に~
https://www.jwa.or.jp/news/2021/08/14303/
1.2020年よりも長く厳しい冬 2月まで高需要が続く
図1は、2021年11月~2022年3月およびその前年同時期を対象とした、東京電力エリアでの気温と日合計需要の変動を示したグラフです。まず、気温の傾向を確認しましょう(図1・上)。2021年冬季(2021年11月~2022年3月)の気温は12月上旬まで概ね平年並みで推移しましたが、その後2月にかけて低温傾向となりました。一方で2020年冬季(2020年11月~2021年3月)は、12月下旬~1月上旬に一時的に低温傾向となりましたが、その後2月にかけて気温が大幅に上昇しました。2020年冬季に比べると、2021年冬季は、低温の期間が長く続いた年と言えそうです。
次に、同期間の日合計需要の変動を比較すると(図1・下)、2021年12月下旬~2022年2月は気温の低下に伴い大幅に需要が増加しています。特に、気温の低かった2月は年による差が顕著です。
2. 2021年冬季の日合計需要は2019年以前と同程度、2020年冬季と同じ傾向
次に、これまでのレポートに引き続き、気温影響を除いたエリア電力需要の傾向を確認しましょう。ここでは図1の期間のうち2021年11月~2022年2月に焦点を当てて、電力需要状況を確認します。図2は、東京電力エリアの日平均気温と日合計需要の関係を示したグラフです。対象データは、2016年4月以降の月曜日を除く平日のデータを用いています。
これまでのレポートを踏まえると、2020年には、新型コロナウイルス感染拡大によるエリア需要の減少が、秋季(低需要期)には見られる一方で、冬季(高需要期)にはほぼ見られないことが分かっています。これは、高圧や特別高圧※1需要の減少と一般家庭などの低圧※2需要の増加のバランスで起こると考えられます。このような傾向は、2021年も同様に見られるのでしょうか。ここで、図2を用いて、同気温帯での日合計需要を見てみましょう。新型コロナウイルス感染拡大前である2019年以前と比較すると、2021年11月は概ね同程度の需要を示します。また、2021年12月~2022年2月については、2019年以前の需要と同程度もしくはわずかに高需要となっています。これより2021年冬季に関しては、日合計需要での新型コロナウイルス影響による需要減少はほぼ見られないことが分かります。したがって日合計需要については、2020年冬季と概ね同じ傾向を示すと言えそうです。
※1 特別高圧:大規模な工場など、大量の電力を使用する施設で用いられる7000V超の電圧(直流・交流)のこと。
※2 低圧:一般家庭や商店などで用いられる直流で750V以下、交流で600V以下の電圧のこと。
3.日中の需要は2019年以前より高需要となるエリアも 深夜需要は低い状況が続く
続いて、時刻別の傾向を見てみましょう。図3は、東京電力エリアの気温と電力需要の関係を時刻別に示したグラフです。東京電力エリアでは2021年12月・2022年1月を中心に、日中と夜(15時・21時)では、新型コロナウイルス感染拡大前である2019年以前よりも高需要傾向でした。一方で、深夜(1時)に関しては2019年以前より低需要傾向でした。
東京電力エリアでの2021年冬季の特徴として、日中と夜(15時・21時)の需要が2019年以前を上回っている点が挙げられます。これは、感染拡大以前と比較してテレワークが普及したことや、夜間の外出減少によって在宅率が増加し、低圧の暖房需要が増加したことによる影響と考えられます。特に日中の低圧需要増加については、今後も高需要期では継続して見られる可能性があります。また、深夜(1時)の低需要については、2022年1月21日~3月6日のまん延防止等重点措置による飲食店の時短営業等による需要減少を表したものと考えられます。
ここで他エリアの傾向も見てみましょう。例えば、図4は中国電力エリアの気温と電力需要の関係を示したグラフです。東京電力エリアと同様、深夜(1時)の中国電力エリアも2019年以前に比べてやや低需要傾向でした。日中~夜(15時・18時・21時)は2019年以前とほぼ同程度で、2021年12月のみわずかに高需要傾向でした。
日中・夜の高需要傾向は東京電力エリアの12月~1月で特に顕著でしたが、中国電力エリアでは12月にわずかに見られたのみでした。中国電力エリアでは、エリア需要に占める低圧需要の割合が東京電力エリアより低いことや、電力エリア間でテレワーク導入率に違いがあることなどを反映していると考えられます。また、深夜(1時)の低需要傾向に関しては東京電力エリア・中国電力エリアともに大きな違いは見られませんでした。これにはまん延防止等重点措置の実施期間が関係していると考えられます。例えば広島県では、東京都とほぼ同じ2022年1月9日~3月6日にまん延防止等重点措置が施行され、当該期間中の深夜需要は減少したと見られます。
4.2022年は夏にかけて高温傾向 高需要期での日中の需要増加は続く可能性も
2021年冬季は、3月にも東日本で低温イベントが発生するなど、2020年冬季に比べても長く厳しい冬となりました。最新の見通しでは、5月~7月にかけては全国的に高温傾向となる見込みです。また、梅雨入り・明けが過去2年よりも早く、7月中旬には夏らしい暑さになる可能性もあります。
今回の分析結果から、2021年冬季は、2020年以降見られていた飲食店への時短・休業要請による深夜需要の減少に加えて、日中時間帯には働き方の変化等に伴う低圧需要中心の需要増加も見られることが分かりました。このような社会構造の変化に伴う需要変化は、今後コロナ禍が収束したとしても長期的に続く可能性があります。新型コロナウイルス感染拡大から3度目の春を迎え、電力需要の長期的変化も注視する必要がありそうです。
※関連リンク
気象のプロだからこそできる高精度なエネルギー需要予測サービス
https://www.jwa.or.jp/service/weather-and-data/weather-and-data-02/
※本文中の電力エリア名表記について、正式な名称は以下のとおりです。
・東京電力エリア:東京電力パワーグリッドエリア
・中国電力エリア:中国電力ネットワークエリア
一般財団法人 日本気象協会 環境・エネルギー事業部 エネルギー事業課 再生可能エネルギー推進グループ 気象予報士 渋谷 早苗(しぶたに さなえ) 神戸大学大学院(地球惑星科学専攻)修士課程修了。 電力・ガス需要の分析、日々の気象状況を踏まえたコンサルティングを行っている。 趣味は登山。山に登る時の天気は自分で予報する。 |
以上
PDFダウンロード:【日本気象協会レポート】エネルギー需要分析レポートVol.6_