(エネルギー需要分析レポートVol.5)気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~昨年同時期より需要は増加 エリアや時刻による差が明瞭に~
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エネルギー需要分析レポートでは、日本の電力需要に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響について、気象の専門家の観点から考察しています(Vol.1~4)。2020年春以降、エリア電力需要に新型コロナウイルスの影響が見られるようになってから1年以上が経過しました。2020年春~梅雨は、複数エリアのエリア需要が5月をピークに約10%減少し、その後梅雨にかけて戻り傾向となる、変化の大きい時期でした(Vol.1)。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大から二度目の春~梅雨となる2021年4月~7月のエリア需要の変化について考察します。
エネルギー需要分析レポートVol.1(2020.06.25発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~電力需要は通常時の約10%減~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/06/10130/
エネルギー需要分析レポートVol.2(2020.07.20発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~緊急事態宣言解除後、全エリアで電力需要は増加傾向~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10447/
エネルギー需要分析レポートVol.3(2020.11.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~全エリアで電力需要は戻り傾向。夜間は低需要が続く~
https://www.jwa.or.jp/news/2020/11/11705/
エネルギー需要分析レポートVol.4(2021.04.27発表)
気象のプロが見る電力需要への新型コロナの影響 ~日中の需要は戻り傾向 夜間需要には緊急事態宣言の影響も~
https://www.jwa.or.jp/news/2021/04/13112/
1.昨年より2週間早い夏の到来 7月下旬は需要の伸びが顕著
図1は、2021年4月~7月と、その前年同時期の東京電力エリアでのエリア電力需要と気温の変動を示したグラフです。まず、気温の傾向を確認しましょう(図1・下)。不順な天候で低温傾向だった2020年4月に比べて、2021年4月は上旬を中心に暖かく、早い春の訪れとなりました。5月~6月は月平均気温で顕著な傾向の差はありません。2020年と2021年の大きな差は、やはり梅雨明けのタイミングでしょう。記録的な長梅雨となった2020年の梅雨明けは8月1日だったのに対し、2021年は7月16日(速報値)と、2週間以上早い梅雨明けとなりました。7月下旬の気温は梅雨期間だった2020年よりも2021年の方が高く、猛暑日に迫る暑い日が続きました。
次に、同期間のエリア電力需要の変動を比較すると(図1・上)、新型コロナウイルスの影響が顕著だった2020年5月に比べて、2021年5月は需要が大きいことが分かります。6月は、顕著な差は見られません。7月の下旬は、梅雨明けが早く高温となった2021年の方が、需要が大きいことが分かります。

2. 2021年春は昨年春より需要増加 2019年以前と比べると低需要が続く
次に、これまでのレポートに引き続き、気温影響を除いたエリア電力需要の傾向を確認しましょう。はじめに日合計電力需要について、新型コロナウイルス感染拡大から二度目の春~梅雨の状況を確認します。図2は、東京電力エリアの日平均気温と日合計電力需要の関係を示したものです。2016年4月以降の月曜を除く平日の時刻別電力需要データを用いています。
前回までのレポートから、新型コロナウイルス感染拡大による特別高圧※1需要の減少は、高需要期(夏や冬)のエリア需要にはあまり影響しない一方で、低需要期(春や秋)にはエリア需要に対する影響が大きいことが分かっています。図2から、同気温帯での電力需要を新型コロナウイルス感染拡大前である2019年以前と比較すると、2021年4月・5月は依然としてやや需要が低いことが分かります。しかし、2020年は同時期に最大で10%以上減少していたのに対し、2021年は数%程度の減少となっています。このことから、同時期で比較しても、新型コロナウイルス感染拡大の電力需要への影響は2020年と比べて相対的に小さくなっているといえそうです。さらに、2021年6月・7月は、ほぼ2019年以前と同程度の需要を示します。2020年は、東京エリアでは7月頃までは新型コロナウイルス影響の需要減少が見られました。このことから、高需要期に向かう6月・7月も、2021年は昨年に比べて新型コロナウイルス影響の需要減少から戻りの傾向になっているといえます。
※1 特別高圧:大規模な工場など、大量の電力を使用する施設で用いられる7000V超の電圧(直流・交流)のこと。

3.日中の需要は2019年以前と同程度まで戻り傾向 夜間需要はエリア間の差が明瞭
時刻別の傾向はどうでしょうか。図3は、東京電力エリアの気温と電力需要の関係を時刻別に示したものです。図3から、2021年4月・5月は、日中(15時)は新型コロナウイルス感染拡大前である2019年以前と同程度の需要を示します。一方で、夕方(18時)や夜(21時)は、2019年以前の同気温帯より需要が小さく、2020年の同時期に比べると需要はわずかに大きいことが分かります。深夜(1時)は、4月は2019年以前に比べてわずかに低需要を示しますが、5月は顕著な差はありません。
4月・5月の低需要期で2020年と2021年を比較すると、2020年は全ての時間帯で需要の低下が同程度に見られる一方、2021年は時間帯による傾向の差があるといえます。東京電力エリアでは、感染拡大前と比べると、広範囲に飲食店や商業施設の休業・時間短縮営業が続いており、外出自粛等により夕方から夜の時間帯を自宅で過ごす人が増えていると考えられます。飲食店や商業施設とは異なり、一般家庭の需要の変動要因は多くが冷暖房であるため、冷暖房をあまり使用しない4月・5月の低需要期には在宅増加の影響が夕方や夜の需要の伸びに繋がりません。その結果、2021年4月・5月は、エリア需要で見ても、低圧※2需要の伸びがそれ以外の需要減少を上回らなかったと考えられます。このように、新型コロナウイルス感染拡大に伴うエリア需要の減少は、2020年春は全時間帯でほぼ一様に見られましたが、2021年春は日中の需要はほぼ2019年以前と同程度まで戻り傾向、一方で夕方や夜はいまだにわずかに需要が小さく、時間帯による傾向の差がみられます。
その後、2021年6月・7月は、日中(15時)は2019年以前より需要が大きい日も見られ、それ以外の時間帯(1時・18時・21時)でも、2019年以前と同程度の需要となっています。高需要期にかけて新型コロナウイルスによる需要減少幅が小さくなる傾向は、2020年の夏や冬にも見られました。この原因として、夏や冬の高需要期には、在宅率増加による冷暖房需要の増加が、飲食店や商業施設の需要減少を補うからであると考えられます。
※2 低圧:一般家庭や商店などで用いられる直流で750V以下、交流で600V以下の電圧のこと。

ここで、他エリアの傾向を見てみましょう。図4は中国電力エリアの気温と電力需要の関係を示したものです。図3から、中国電力エリアでも、全時間帯で2020年の同時期と比較して需要は戻りの傾向であることが分かります。時間帯別の傾向を見ると、日中(15時)は2019年以前と比較しても、ほぼ同程度の需要となっています。これは、中国電力エリアだけでなく全電力エリアで共通の傾向であり、夏季に最大需要を記録する日中時間帯では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う需要減少がほとんど見られないといってもいいでしょう。
また、特に2021年5月・6月は、夕方(18時)~夜(21時)を中心に、2019年以前より需要が小さくなっています。東京電力エリアでは、4月・5月の低需要期を中心に夕方~夜は需要が小さくなっていましたが、中国電力エリアでは時期がわずかにずれているようです。広島県内では、2021年5月16日~6月20日にかけて緊急事態宣言が出されており、飲食店や商業施設の休業・時間短縮営業の影響がエリア需要に現れたと考えられます。このように、2021年は、新型コロナウイルス影響で昨年から休業や営業時間短縮要請が続いているエリアとそうでないエリアでは、需要への影響度合いや期間に差が生じている可能性があります。これは、2020年の4・5月に全エリアで一様に需要減少が見られたこととは対照的です。

4.2021年は厳しい残暑 例年通りの需要の伸びとなる見込み
2021年は、記録的な長梅雨となった2020年に比べて2週間も早い梅雨明けでした。その後7月末にかけて本格的な夏の到来を感じる厳しい暑さとなり、お盆には全国的に前線が停滞し大雨となりました。最新の見通しでは、8月後半は北日本では天気が周期変化となり、東日本・西日本では夏空で暑さが戻る見込みです。また、9月は月の前半を中心に残暑が厳しいと見ています。
今回の分析結果から、2021年は、梅雨から夏にかけて気温が上昇する時期に、昨年よりも電力需要が増加傾向にあることが分かりました。また、前回までの分析結果から、高需要期には新型コロナウイルス感染拡大に伴う需要減少はほぼ見られなくなることが分かっています。2021年も、8月下旬にかけて例年通り需要が伸びる可能性が高いと見ています。東京で開催中のオリンピック・パラリンピックの影響など、現状は評価が難しい要因もあるため、盛夏期にかけての需要変動を注視していく必要があるでしょう。
※関連リンク
気象のプロだからこそできる高精度なエネルギー需要予測サービス
https://www.jwa.or.jp/service/weather-and-data/weather-and-data-02/
※本文中の電力エリア名表記について、正式な名称は以下のとおりです。
・東京電力エリア:東京電力パワーグリッドエリア
・中国電力エリア:中国電力ネットワークエリア
![]() | 一般財団法人 日本気象協会 環境・エネルギー事業部 エネルギー事業課 再生可能エネルギー推進グループ 気象予報士 渋谷 早苗(しぶたに さなえ) 神戸大学大学院(地球惑星科学専攻)修士課程修了。 電力・ガス需要の分析、日々の気象状況を踏まえたコンサルティングを行っている。 趣味は登山。山に登る時の天気は自分で予報する。 |
以上
PDFダウンロード:【日本気象協会レポート】エネルギー需要分析レポートVol.5_