(日射量レポートVol.3)「2021年の日射量」
~2021年の日射量分布は、 東日本から西日本にかけて「やや少ない」から「例年並」の傾向~
Report
日本気象協会では、2015年から毎年、日本全国の年間日射量※1を地域別にまとめた「日射量レポート」を発表しています。今年も最新版「2021年の日射量」レポートを発表します。「日射量」という視点から、2021年がどのような1年だったかを早速振り返ってみましょう。
※1 全国にある約840カ所のアメダス観測地点の日照時間をもとにした「推定日射量値」から算出した1年間の合計日射量。
1.2021年は、どのような年だったのか
日本気象協会は毎年12月に、日本気象協会所属の気象予報士のうち100名が選ぶ「日本気象協会お天気10大ニュース」を発表しています。2021年は図1の10大ニュースが選ばれました。
2021年も大雨、大雪、高温など、全国各地でさまざまな気象に関するニュースがありました。特に、3月の全国的な高温、7月~8月の北海道での記録的猛暑、10月の九州での猛暑日記録など高温が目立つ1年でした。このほか、7月初めには関東南部や東海を中心とした記録的な大雨、8月中旬以降には東日本から西日本の広い範囲で異例の長雨なども観測されました。また、2021年の台風上陸数は平年とほぼ同じ3個でしたが、統計開始以来で初めて宮城県や福岡県に上陸した年となりました。
2.2021年の日射量 例年との比較
2021年の日射量を例年と比較しました(図2)。2021年の日射量例年比は月や地域によってバラつきがありましたが、年間日射量は東日本から西日本にかけて「やや少ない」から「例年並」の傾向となりました。一方で、北海道日本海側・オホーツク海側、沖縄では「やや多い」傾向がみられました。
3.2021年の日射量 前年(2020年)との比較
2021年の日射量を前年(2020年)の日射量と比較しました(図3)。この結果、2021年の年間日射量は、北日本から東日本にかけては日射量が少なかった前年と比較して「やや多い」から「多い」傾向となりました。一方で、西日本の広い範囲では前年と比較して「やや少ない」から「前年並」の傾向が見られました。
4.2021年の日射量まとめ
表1に「2021年の日射量」をまとめました。全国約840地点のアメダスの日照時間※2から全天日射量※3を推定する日本気象協会の独自技術「アメダス推定日射量」をもとに分析しています。オレンジ色の部分は例年※4または前年(2020年)の日射量と比べて「多い」、青色の部分は「少ない」を表しています。それぞれ「やや多い(またはやや少ない)」「多い(または少ない)」「かなり多い(またはかなり少ない)」の三段階で評価しています。白色の部分は例年並(または前年並)を表します。
※2 直射日光が地表面に当たっている時間。一般的に日照時間が多いほど日射量も多い傾向がある。なお2021年3月2日をもって、気象台などの一部地点を除いて日照計による観測を終了した。観測終了後は、気象衛星観測データなどを用いた「推計気象分布(日照時間)」が代わりに提供されている。
※3 地表面が受ける太陽からのエネルギー量。
※4 例年の日射量:過去10年(2011年~2020年)の年間日射量の平均値。
2021年は、例年と比較して、東日本から西日本にかけて「例年並」や「やや少ない」地域が多くなりました。一方で北日本、北陸、沖縄では「やや多い」地点が見られました。前年と比較すると、北日本から東日本にかけて「やや多い」や「多い」地域が見られました。
5.2021年の日射量 月変化
日射量の視点から、2021年の中で特徴があった月を振り返ります。参考までに、札幌、仙台、東京、大阪、福岡、那覇を対象とした日射量の月変化(2021年、前年、例年)を図4に示します。
2月
冬型の気圧配置が長続きせず、高気圧に覆われることが多かったため、北日本を除いて全国的に日射量が多くなりました。東日本の太平洋側(関東甲信・東海)、西日本の日本海側(近畿日本海側・山陰・九州北部)、沖縄・奄美では1946年の統計開始以来、2月として1位の日照時間となりました。
5月
平年と比較して梅雨前線の北上が早く、九州では5月11日、中国、四国では5月12日とかなり早く梅雨入りしました。北日本、東日本でも低気圧や前線の影響を受けやすく、沖縄・奄美などの一部地域を除いて、全国的に日射量の少ない地点が多くなりました。
6月~7月
6月は、梅雨前線が日本の南海上に停滞しやすかったことから、那覇を含む沖縄・奄美地域では、曇りや雨の日が多くなり、日射量が例年または前年と比較して少なくなりました。一方、札幌を含む北海道日本海側などの地域では、6月から7月にかけて日射量が多くなりました。札幌では、7月に月間日照時間が多い記録が更新されました。なお、前年(2020年)は、東日本から西日本にかけて、7月に梅雨前線や湿った気流の影響で日照時間や日射量が記録的に少ない年でした※5。そのため7月は、2020年と2021年で日射量の差が大きくなっています。
8月
中旬以降はオホーツク海高気圧の張り出しが強まり、本州付近に前線が停滞しやすくなりました。この影響で東日本、西日本では曇りや雨の日が多く、例年や前年と比べ日射量が少ない8月となりました。日射量が多かった前年(2020年)と比べると、仙台、東京、大阪、福岡で日射量が少なかったことが分かります。8月11日から21日頃にかけては広い範囲で大雨となり、広島県、長崎県、佐賀県、福岡県には大雨特別警報が発表されました。
10月~11月
東日本、西日本では高気圧に覆われ晴れの日が多くなりました。仙台、富山、長野、千葉、豊岡、京都、彦根などでは、11月として1位の日照時間となりました。
図4 主要都市における2021年、前年、例年の日射量の月変化
※5 (日射量レポートVol.2)「2020年の日射量」~2020年の日射量の分布は、北日本・東日本で「少ない」から「やや少ない」傾向~ https://www.jwa.or.jp/news/2021/04/12959/
6.「アメダス推定日射量」について
「太陽光」の強さを計る尺度として、「日射量」や「日照時間」があります。太陽光発電出力を推定するためには太陽からのエネルギー量を表す「日射量」の情報が必要です。しかし、気象庁が観測している全天日射量は全国48カ所※6と限られ、全国約840地点のアメダスの日照時間と比べると地点数が不足しています。
そこで日本気象協会は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究事業を通じ、アメダスで観測された日照時間から全天日射量を高精度で推定するモデルを開発し、2013年から運用しています。
このモデルによる出力結果を日本気象協会では「アメダス推定日射量」として大手電力各社、新電力各社、太陽光発電事業者向けに提供しています。アメダス推定日射量は、エネルギー事業者向け総合APIサービス 「ENeAPI」などを通してリアルタイムで提供しているほか、1992年から蓄積している過去データも提供可能です。これらの情報は、太陽光発電設備を建設する際の事業採算性評価・リスク評価や、故障診断を目的とした太陽光発電設備の運用監視などにご利用いただけます。
アメダス推定日射量
https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/solar-power-02/
エネルギー事業者向け総合APIサービス ENeAPI
https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/solar-power-06/
※6 2022年3月14日現在の観測地点数。
7.日本気象協会の太陽光発電事業者向けサービスについて
日本気象協会では「アメダス推定日射量」のほかにも、独自気象モデルによる日射量・太陽光発電出力予測情報(SYNFOS-solar)やひまわり8号データによる日射量推定・予測情報(SOLASAT 8-Now、SOLASAT 8-Nowcast)などを展開しています。これらの推定・予測情報は、太陽光発電事業に関わる幅広い分野で活用いただいています。
今回ご紹介した「2021年の日射量」レポートを太陽光発電や農業分野などの事業者の皆さまに参考情報としてご提供することで、ビジネス活動の活性化を支援いたします。
日射量・太陽光発電出力予測 SYNFOS-solar
https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/solar-power-05/
ひまわり8号による日射量推定サービスSOLASAT 8-Now
https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/solar-power-13/
ひまわり8号による日射量予測サービスSOLASAT 8-Nowcast
https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/solar-power-12/
※本レポートの年間日射量の比較に関する用語
かなり多い :例年(前年)の+10%以上
多い :例年(前年)の+6~+10%
やや多い :例年(前年)の+2~+6%
並 :例年(前年)の-2~+2%
やや少ない :例年(前年)の-2~-6%
少ない :例年(前年)の-6~-10%
かなり少ない:例年(前年)の-10%未満
<過去発表した「年間日射量」の傾向資料について>
2015年 ( 2016.2.29 https://www.jwa.or.jp/news/2016/02/4564/ )
2016年 ( 2017.1.19 https://www.jwa.or.jp/news/2017/01/4421/ )
2017年 ( 2018.1.31 https://www.jwa.or.jp/news/2018/01/4298/ )
2018年 ( 2019.1.31 https://www.jwa.or.jp/news/2019/01/4202/ )
2019年 ( 2020.3.11 https://www.jwa.or.jp/news/2020/03/9493/ )
2020年 ( 2021.4.14 https://www.jwa.or.jp/news/2021/04/12959/ )
一般財団法人 日本気象協会 環境・エネルギー事業部 エネルギー事業課 技師 気象予報士 宇都宮 健志(うつのみや けんじ) 名古屋大学大学院工学研究科(社会基盤工学専攻) 修士課程修了 日射や太陽光関連のデータ解析、コンサルタント業務に従事している。 |
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